国公立の高校は地方を中心に「1人1台端末」の整備が進んでいる

ICT市場調査コンサルティングのMM総研は2021年10月末、国内の高等学校(国公立・私立)5007校を対象に、1人1台端末環境やネットワークの整備状況に関する調査を実施した。国公立1533校、私立510校の計2043校から回答を得た。

調査結果によると、国公立における配備率は47%。配備率とは、配備済みの端末台数の合計を国公立の生徒数で除した値だ。21年3月調査が44%だったため3ポイント増えてはいるが、まだ半数以上に端末が配備されていないことがわかった(私立は前回調査の対象外)。この数字を国公立全体(約3600校)に拡大して推計すると、現状は約97万台が配備されており、1人に1台端末が行き渡るには約110万台足りないと算出されるという。

学校単位で見てみると「1人1台端末」を完了している学校は、国公立で33%、私立で35%だった。全体で見ると、国公立と私立で大きな差はないが、私立では完了率の高い層(40%以上)、平均値周辺(20%〜40%)、低い層(20%未満)と3層にほぼ均等に分布していて、とくに東京、神奈川、埼玉、大阪、福岡、兵庫、広島など都市を要する地域で「1人1台端末」の完了率が高い(おおむね40%〜60%)。

一方、国公立はむしろ地方を中心に「1人1台端末」の完了率が極端に高い層(80%〜100%)が多く、平均未満の層(30%未満、0%も多い)と二分している。こうしたことから、私立は都市部を中心に端末活用が進んでいて、国公立は「1人1台端末」の完了率が低かったものの、GIGAスクール構想を追い風として、ここ2年で急速に配備を進めた自治体が地方中心に多いのではないかと考えられるという。

「保護者負担」で整備の自治体、学校現場の認知に課題

21年8月に文部科学省が実施した「公立高校における端末の整備状況(見込み)について(令和3年8月時点)」では、47都道府県のうち端末の主要な配備原資を自治体予算や国の補助金などの「公費を利用する」自治体が18、「保護者負担」の自治体が21、原資を「検討中」とする自治体が8だった。

今回MM総研は、この調査結果との比較分析も行っている。興味深いのが公費を利用した自治体で配備率が高い傾向にある一方、保護者負担を選択した自治体の配備率が全体平均の47%より低い傾向にあることがわかったのだ。とくに大都市圏の自治体は、保護者負担で整備を進める方針だが、現状は未配備台数が多い。

端末の配備率・配備台数と配備費用の関係
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さらに「保護者負担」で配備する方針の自治体の中でも、保護者への周知、理解の窓口となる学校現場の方針認知に顕著な差があることがわかった。大都市圏は配備すべき端末数が多いこともあるが、学校現場の「保護者負担」認知が進んでいない状況も明らかとなった。こうした自治体では、自治体の方針はあるものの、それが学校現場へ十分に伝わっていないと考えられるという。

一方で、広島県など「保護者負担」とする方針を多くの学校が認知、理解している自治体もある。こうした自治体では、学校側の認知や理解を背景に、保護者と学校の対話を通じて費用負担を含めた「学校や授業の日常的なデジタル活用」への理解が広がった考えられる。

自治体における端末費用方針と学校の保護者負担認知率の関係
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インターネット回線は、継続的な見直しが求められる

GIGAスクール構想によって「1人1台端末」が配備された小・中学校では、実際にクラス全員で授業中に使ってみたところ、インターネットにつながらなかったという話をよく聞く。新型コロナウイルスの感染拡大により、まずは「1人1台端末」の整備を急いだことから、同時接続した場合のネットワーク環境まで十分検証したうえでスタートできた学校が多くなかったからだ。

今回の調査では、普通教室で生徒用端末をインターネットにつなぐ際の接続品質についても聞いている。すると国公立は快適と回答した学校が23%、普通41%、不満23%、そもそも利用していないが13%。一方、私立は快適36%、普通38%、不満8%、そもそも利用していないが19%だった。ネット環境に不満という回答が、国公立は私立の約3倍にも上ることが明らかになった。その理由としては、「インターネットにつながりにくい」「回線速度が遅く、動画などが活用できない」という意見が多かった。

私立では85%が学校からインターネットに直接接続しているのに対し、国公立では11%が直接接続、85%が教育委員会や自治体のネットワークを経由して接続していた。従来PC教室や職員室から少数でアクセスすることを前提に設計されたものであり、これが回線速度や品質の低下を招いている可能性がある。

今後の「1人1台端末」整備を見据えたインターネット回線のあり方について聞いた設問では、「見直す必要がある」とした回答が国公立・私立問わず約半数に上った。現状、学校から直接インターネットに接続している私立でも、回線帯域や本数の増強を検討しているとみられる。

一方、「1人1台端末」が完了している学校で、インターネット回線を「見直す必要がある」と回答した国公立は52%、私立は37%と若干低かった。端末の整備で先行した私立では活用を進める中で、インターネット環境の見直しも同時に進めてきたためとみられる。だが今後、現状課題を感じていない学校でも、端末配備が進み活用が進む中で、インターネット回線の課題が表面化し、見直しに迫られることも考えられるだろう。

MM総研執行役員の中村成希氏は「端末費用の保護者負担を背景に、授業のデジタル化の目的が学校・保護者に十分に伝わらず、その結果環境整備が遅れるということでは本末転倒。デジタルインフラ整備の先にある学びの活用に何が期待され、どのような目標を持つのか、その入り口となる整備原資はどうあるべきか。 政府、自治体には引き続き議論を尽くして教育現場に説明していく責任がある」と話す。

こうして高校で、1人1台端末の整備が急がれる背景には、GIGAスクールによって整備されたICTを活用した学びを途切れさせないことにある。中学校まではPCを日常的に使っていたが、高校に入ったらパタリとなくなったというのでは全国的に端末を急いで整備した意味がない。ICTの整備状況が学びの格差につながらないよう、保護者への認知浸透を図りながら理解を得るための工夫が自治体には求められる。

(文:編集チーム 細川めぐみ、注記のない写真:ふじよ/ PIXTA)