年収300万彼女が追徴課税3000万受けた深刻理由 税金に対する「無知と無関心」が招いた悲劇

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ビットコインなど暗号資産投資の税務申告をめぐる悲劇を紹介します(写真:fizkes/iStock)
「億り人(おくりびと)」という言葉をご存じでしょうか? 外国為替証拠金(FX)取引などに投資して1億円を超える利益を上げた個人投資家が2008年に公開されて大ヒットした日本映画『おくりびと』をもじってそう呼ばれるようになりました。インターネット空間で使える暗号資産(当時の呼称は仮想通貨)の世界でも、2017年末の価格暴騰を背景に雨後のたけのこのごとく誕生したと言われています。
億り人には当然、巨額の納税義務が生じますが、「巨額の申告漏れや所得隠しを指摘された億り人の報道を目にする機会がなく、私にとっては大きな疑問だった」というのは、税金事件の取材を長年続けているベテラン国税記者・田中周紀氏だ。
その後田中氏は、2019年秋に複数の暗号資産投資家と知り合うことで、彼らが納税をめぐり大変な苦境に陥っている実態を把握したそう。本稿では田中氏の新著『実録脱税の手口』より一部抜粋し再構成のうえ、その具体的な体験を例に、暗号資産への投資が引き起こした悲劇を紹介します。キーワードは「税金に対する無知と無関心」です。

暗号資産投資の税務上の悲劇

日本居住者のビットコインなど暗号資産投資については、税務申告をめぐる悲劇が存在する。2017年12月の価格急騰局面で、保有する暗号資産を別の暗号資産に等価で乗り換えたあと、その後の暴落に巻き込まれたケースがそれだ。暗号資産の税務に詳しい税理士が解説する。

「暗号資産の売買益に対する課税に関して、投資家の大半は『法定通貨と交換して換金した場合に課税される』と認識していました。

ところが価格急騰中の2017年12月1日、国税庁個人課税課が同庁のホームページ上で唐突に公表した『仮想通貨に関する所得の計算方法等について(情報)』(FAQ=よくある質問)の中で、『保有する仮想通貨を他の仮想通貨を購入する際の決済に使用した場合、その使用時点での他の仮想通貨の時価(購入価額)と保有する仮想通貨の取得価額との差額が、所得金額となります』とされました。

つまり保有する暗号資産をほかの暗号資産に乗り換えた場合、保有する暗号資産に生じている含み益が課税対象所得となるわけですが、この場合、投資家の手元に利益は入っていません。しかも、このFAQの存在に気づいた暗号資産投資家はほとんどいませんでした」

このFAQが意味するものを、具体例を挙げてさらに詳しく説明しよう。

投資家が50万円で購入したビットコイン1枚が100万円に値上がりした。この時点で投資家はビットコインを売却(換金)して利益を確定させることなく、1枚5万円のイーサリアムに乗り換える。ビットコイン1枚と等価値のイーサリアムは20枚なので、投資家はこのレートで交換(乗り換え)を実行。程なくイーサリアムが10万円に値上がりしたので、投資家は手持ちのイーサリアム20枚をすべて換金して200万円を手にしたとする。

一連の流れの取得原価はビットコイン1枚を購入した際の50万円。これが最終的に200万円になったのだから、差額の150万円を課税所得とするのかと言うと、事はそれほど単純ではない。

取得原価50万円でビットコイン1枚を購入し、値上がりしたビットコインを等価値のイーサリアムにそのまま乗り換えたとは考えず、ビットコインをいったん売却して利益を確定させ、その利益とビットコインの取得原価を合わせた合計100万円を、イーサリアムの取得原価と見なすのである。

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