年収300万彼女が追徴課税3000万受けた深刻理由

税金に対する「無知と無関心」が招いた悲劇

エイダコインが最高値をつけた翌月の2018年2月上旬、千葉市幕張で開かれたビジネスセミナーに参加した樋口さんに転機が訪れる。セミナー終了後、隣接するホテルの一室に参加者を20人ずつ集めて行われた個別ミーティングで、「PumaPay(プーマペイ)」というICO案件を紹介されたのだ。樋口さんが振り返る。

「暗号資産価格は当時暴落していましたが、複数の暗号資産に分散しておけば取りあえず大丈夫と聞かされていました。プーマペイはイーサリアムでしか購入できなかったのですが、私はイーサリアムを保有しておらず、割り当てられたプーマペイの枚数に見合うイーサリアムを購入する資金も持ち合わせていませんでした。

業者から1週間以内にイーサリアムを送るようせかされたこともあり、2年以上換金せずに持ち続けたエイダコインほぼすべてをイーサリアムに乗り換え、さらにそれをプーマペイのトークンに乗り換えました」

暗号資産価格は暴落が続いていたが、樋口さんが保有するエイダコインにはまだ5000万円を大幅に上回る含み益が存在した。エイダコインをイーサリアムに乗り換えた時点でかなりの課税所得が発生していたにもかかわらず、樋口さんは「課税されるのは法定通貨に換金した場合だけ」と信じて疑わなかった。

プーマペイのトークンは2018年8月10日にイギリスの大手暗号資産取引所「Hitビットコイン」に上場されたものの(円建ての初値は1枚0.16円)、実はこの取引所自体、プーマペイ上場2カ月前の同年6月、日本の金融庁から日本居住者向けのサービスを差し止められていた。プーマペイも上場直後は0.19円まで値上がりしたが、その後は下落基調をたどり、出来高もほぼゼロの状態。2021年6月半ば現在の価格は0.02円台と無価値同然だ。

税務署から受けた指摘で現状に気づく

前述したとおり、樋口さんにはそもそも、2018年2月に5000万円を超える課税所得が発生した認識がない。個人事業主の立場で家業を手伝う彼女は毎年確定申告しているが、2018年分の申告では暗号資産乗り換えで生じた雑所得をまったく記載しなかった。それから7カ月後の2019年9月下旬、所轄の税務署からお尋ねの連絡が入る。それは彼女にとって青天の霹靂(へきれき)だった。

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「2018年2月のセミナーで手に入れた暗号資産関係のソフトの購入費を、家業の手伝いで得た事業収入の経費に計上したことで、2018年分の所得が約170万円の赤字になりました。そんな状況は過去の申告で前例がなかったので、所轄の税務署に疑念を持たれたようです。ただ、自宅を訪ねてきた調査官は当初、私が暗号資産に投資している事実にまったく気づいていませんでした」(樋口さん)

ところが質問が通信システム費に及び、樋口さんが「暗号資産の裁定取引のシステムです」と正直に答えたところ、調査官は「えっ、暗号資産に投資しているんですか!?」と驚いて目の色を変えた。樋口さんが回想する。

「そこからはすべての預金口座の入出金や、暗号資産の取引状況について書類を提出するよう要求されました。私は暗号資産の課税ルールをまったく承知しておらず、暗号資産同士を交換した際に生じた含み益を実現益と見なすことや、暗号資産絡みの経費を事業収入の経費にはできないことなど、何一つわかっていなかった。取引状況を精査していた調査官から『これ、儲かってますよ』と指摘されたときには、目の前が真っ暗になりました」

その結果が約5300万円の申告漏れと、加算税や住民税まで含めた約3000万円の追徴課税である。年収300万円のシングルマザーにとっては、気の遠くなるような金額だ。

「わずかに残したエイダコインも息子の学費や自分の引っ越し費用の支払いに充てるために換金し、ほとんど残っていません。税務署には『気の毒だけど、ルールはルール。1万円でも2万円でもいいから、毎月末までに納めてください』と言われ、2020年の3月、4月と数万円ずつ納めました。新型コロナウイルス禍で収入が激減し、現在は所得税と住民税の納付について、1年間の猶予措置の適用を受けています。くじけずに何とか納め続けるしかありません」

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