揺らぐ中国の「自信」、8%成長の自縄自縛

拡大
縮小

実は4兆元計画の中身を子細に見ると、前回の発表とはだいぶ違いが見られる。全体にインフラなどハードへの投資が削られ、社会保障や住宅に資金を手厚く配分する姿勢が強まった。

その理由について、みずほ総合研究所の鈴木貴元・上席主任研究員は「民主関連に配分を厚くしたのは、所得向上、消費拡大に即効性があると判断したことが背景にあるようだ。一方、インフラ建設は、今後追加策が必要なときに備えて一部を留保したと考えられる」と推測する。

財政のみならず、金融政策も総動員されている。昨年半ばまで厳しい金融引き締めを行ってきた中国人民銀行(中央銀行)も、大々的な金融緩和に転じた。政府活動報告には、今年はマネーサプライを17%前後伸ばすこと、新規の銀行融資を5兆元以上伸ばすことがうたわれた。

その結果、1月だけで銀行融資は1・6兆元という空前の伸びを示した。周小川・人民銀行総裁は「1月の銀行融資の伸びはわれわれの予想を上回った」としながらも、金融危機防止のためには「中期的に見れば合理的なレベル」とする。

にもかかわらず、2月の消費者物価指数が1・6%減となり、6年ぶりのマイナスに転じたことからデフレ懸念が浮上。中国のメディアではさらなる金融緩和を求める論調も出ており、人民銀行は「油価下落の影響や、大雪害だった前年の反動という特殊要因だ」と火消しに躍起だ。

1~2月の固定資産投資は前年同期比26・5%増の1兆0276億元となったが、その中身を見ると政策頼みの色が濃い。鉄道運輸関連が210・1%増の343億元と爆発的な伸びを示した一方で、不動産開発は同1・0%増の2398億元にとどまった。また国内系企業の投資が30・7%伸びている一方で、外資系企業のそれは2・1%のみ。景気刺激策の恩恵に直接あずかれない分野はまだまだ元気がない。

突出して成長する分野と、カンフル剤が必要な分野が混在するちぐはぐな状況である。急増した銀行融資も、借り手企業の余資運用に回されている部分が少なくないようだ。

今年8%成長を実現できたとしても、そのことが翌年のハードルをさらに高くする。今や8%成長という目標に指導部も縛られている。内需主導への転換という難題をクリアしつつ、その目標を達成する自信は温首相にもないに違いない。

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT