スバル、ブームにもブレない車作りの信念 安全技術で先行、自動運転で何を目指すのか

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――トヨタや日産といった大手メーカーだけではなく、軽自動車のスズキなども自動ブレーキなどの運転支援システムに力を入れ始めている。今は技術力で優位に立っているが、キャッチアップされる可能性はないのか。

武藤直人(むとう なおと)/1977年富士重工業に入社。商品企画本部長や購買本部長を歴任し、2011年から取締役専務執行役員(撮影:梅谷秀司)

あまり心配していない。現在は自動ブレーキ分野などが成長過程にあり、1989年から開発に先んじていたスバルは先行した分の利益を享受できている。

今のアイサイトは左右2つのカメラで立体的に対象を把握しているが、予防安全の技術が成熟していくと、カメラやレーダーの搭載個数など各社の間でバリエーションが出てくる。3、4年後にスズキや、トヨタ、ベンツがどう出てくるかを予想し、スバルが勝ち残れる戦略を描いて仕込みをしている。

――経営資源で勝る大手メーカーがこぞって衝突回避技術に力を入れたとき、スバルの小さな規模で勝ち続けられるのか。

小さいから負けるというのはあくまで一般論。これまでも衝突安全性など小さくても勝ってきた分野がある。アイサイトも精度を高め、その究極の姿である部分自動運転へとつなげる。技術とはあるべき姿をまず描き、そこに向かって一歩ずつ進んでいくもの。そのあるべき姿をどれくらい正確に描けるかで差が出る。

お値打ちな自動運転の実用車を開発する

――今見えているあるべき姿とは、2020年に計画されている高速道路上での自動運転の実用化か。

まずは高速道路の自動運転に確実に取り組む。2015年のフランクフルトと東京のモーターショーにおいて、飛躍的な技術の進歩が見られた。2年前のモーターショーでも自動運転は注目されつつあったが、2015年は注目度が格段に高まった。次回の2017年はより実用的な技術を各社が出してくるはずで、その中で負けないようする。

カメラやレーダーを10数個つけた試作車1品で、ハンドルから手を放してテストコースを走らせるくらいのレベルであれば、スバルは2003年頃にアイサイトの原型を使って実現している。ただ、カメラやレーダーを多数つけるとコスト増になり、普及させることはできない。お客さんから見てお値打ちだと思える価格で開発する。

――環境対応の分野も競争が激しくなっている。

完全に電気だけで走る自動車ではないかぎり、ハイブリッド(HV)やプラグインハイブリッド(PHV)でも内燃機関は残る。スバルの顧客からの要望が強いのは、「内燃機関の質を上げてほしい」という声なので、そこに取り組むことが第一だ。

2018年から米国カリフォルニア州のZEV法(一定割合でゼロエミッション車の販売を義務づける規制)へ対応するためには、PHVも出していかないといけない。電動化技術のレベルアップは法規制に引っ張られてやらざるをえないことであり、そこに顧客のニーズがどれだけあるのかはまだわからない。

リチウムイオン電池を積んで、どのような衝突の仕方をしても大丈夫な車を作らないといけない。これは開発が難しく、コストもかかる。新しいプラットホーム(車台)を全車種で共通化して、電動化にかかるコストを減殺できれば、収益性を落とさなくて済む。

宮本 夏実 東洋経済 記者

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みやもと なつみ / Natsumi Miyamoto

自動車メーカー、部品会社を担当

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