戦後最大の難民危機、問題はどこにあるのか シリア難民だけが難民ではない
――ドイツのメルケル首相が難民を積極的に受け入れると表明したインパクトは大きいものでした。
3、4カ月前でしたら、もう少しポジティブなことを申し上げたでしょう。たしかに、ドイツを中心にこの夏、難民歓迎ブームは存在しました。全員が歓迎していたわけではありませんが、下から来る熱気は確かに存在しました。でも、時を経て、そういうトーンは弱まってきました。ドイツは態度を硬化させて、トルコにいる約200万人近いシリア難民をトルコ国外に出させないよう、ものすごいプレッシャーをかけています。
EU(欧州連合)とトルコがいまやっていることは、私に言わせれば取引です。EUはトルコに対し、難民を外に出さないよう国境管理を強化せよと言っています。その代わりにずっとトルコが望んできたEU加盟に便宜をはかります、ビザを緩めます、という取引です。
EUとトルコの取引は人権をないがしろにしている
トルコのEU加盟を認めない理由の一つとして、人権をないがしろにしているということをEUはずっと言っていた。ただいまは、EU自体がトルコに対し、事実上それよりもずっとスケールの大きな人権侵害をするように促しているわけです。
国連人権憲章では、われわれ全員に亡命する権利が認められています。自分の国で生きていけないときに、別の国に保護を求める権利は万人に認められています。そういう普遍的価値観もないがしろにされています。
EUに約80万人の難民が入ったことで、大騒ぎしていますが、シリアの周辺国が受け入れている難民は、それとは比較にならないくらい多いのです。さらに、シリアの中にとどまっている国内避難民の数も膨大です。
EUはトルコにいわば、封じ込め作戦を要請しています。これまでの歴史が証明するように、地続きの国同士で、本当の意味の国境管理は不可能です。あまり予測したくないことですが、そうした場合に歴史上必ず密入国ビジネスが出てきますし、人身売買のようなビジネスが横行します。あるいは、もっと危険なルートを使って入っていくような方向に間違いなくいきます。難民の人たちからすれば、国境警備が厳しくなったから、出国を取りやめてシリアに帰ろうということには絶対にならないわけですから。
そういった結末を実はわれわれ自身が作り上げているんじゃないでしょうか。「われわれ」というのは、欧州だけでなく日本を含めた先進国全体です。今の状況を黙認することで、そういう危険な状態を作り出している。
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