もし、この企業で借金が増えすぎるなどして倒産の危機が生じていると仮定しよう。このとき、ここで働く従業員は、汎用的でないスキルを習得するための訓練を真面目に受けようと考えるだろうか?
このケースは、固有の技術を有する企業が財務レバレッジを高めるような経営を行った場合に、従業員の努力インセンティブ(真面目に訓練を受けて、製造に取り組む動機)を削いでしまう可能性があることを示している。このような企業にとっては、倒産する事態を避けるために、一般の企業より財務レバレッジを低下させておくこと(有利子負債を自己資本に対して減らすこと)が望ましいといえる。
この関係を確かめるために、ヨーク大学(カナダ)のBae教授をはじめとする研究グループは、従業員の福利厚生や報酬制度などを評価したKLD社(現MSCI Inc.)の従業員福利厚生スコア(Employee well-being score)を用いて、S&P500指数の構成企業を対象に分析を行った。その結果、従業員福利厚生スコアの高い企業では、財務レバレッジが低いことを見出している*1。すなわち、自社固有のスキルが競争の源泉となるような企業にとって、財務レバレッジが低い方が好ましいことが実証的にも示されている。
以上の議論は、女性従業員が活躍する企業に対しても同様に考えられる。そこで、ここでは女性従業員の活躍を表す指標(以降、女性指標)として、『CSR企業総覧』2012年版から計算される女性採用者比率、女性従業員比率、女性管理職比率を用いる*2。これらの指標を、企業が属する業種*3ごとの中央値よりも高いグループ(High)と低いグループ(Low)に分類した上で、各グループの財務レバレッジの平均値を比較する。
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*2 この理由は、第1回連載時に述べたように、部長以上の女性役職者がほとんど存在しないためである。
*3 第1回「女性従業員の活躍状況」で分類した7業種(素材、加工、製造、非製造、運輸、公益、金融)を用いている。