多文化、多言語主義に世界の「未来」がある 世界銀行総裁から若い人たちへのメッセージ
──世界の貧困層の半分がアフリカのサブサハラ地域(サハラ砂漠以南)に集中しています。2012年時点と比べて貧困率は減少していますが、南アジアや南米、東アジアと比べても集中度が極めて高い。要因は何ですか。
中国は経済成長が貧困削減に結び付いてきましたが、アフリカではGDPが伸びても貧困が低減しにくい。中国とアフリカ両者の経済成長の中身に違いがある。アフリカはGDPの伸びのほとんどを鉱物や石油資源の発掘といった採取産業が占めており、雇用にあまり貢献してくれない。一方、中国の経済成長の大半は製造業がもたらし、雇用にもプラスに働いた。農業面でも生産性が向上する「緑の革命」は起こったが、アフリカではそれほどインパクトが強くなかったのです。
アフリカについては極度の貧困を減らすためには、冒頭で話した3つの施策を同時に進めていかないといけない。まず経済を成長させ、雇用を伸ばし貧困者の生活が改善できるようにしていく。そのためには、エネルギー、農業、小規模製造業に注力することが必要です。人材への投資も欠かせない。アフリカは社会保障も未整備です。
パンデミックが世界を襲えば3000万人死亡
──世銀は2014年にサブサハラ地域で大流行したエボラ出血熱の対策で資金支援に乗り出しました。2015年には韓国でMERS(中東呼吸器症候群)が猛威を奮いましたが、こういった高い感染率を持つパンデミックへの対策は、これから冬本番を迎える先進国にとっても喫緊の課題です。1万1000人以上が死亡したエボラ出血熱で学んだ教訓をどう生かすべきだと思われますか。
エボラ出血熱の教訓でわかったことは、世界はパンデミックに対してあまりにも脆弱だったということです。専門家が言うには、1918年に起こったスペイン風邪のような深刻な感染症が今後30年以内に起こる可能性は極めて高く、そうなれば250日間で3000万人が死に至る。世界のGDPの約5%、額にして4兆ドル近くが失われるといわれています。1918年当時はクロスボーダーの旅行者が今の50分の1程度だったことを考えると、迅速な包括的アプローチが重要なのです。
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まず第1に各国がきちんとパンデミックに準備をすること。感染症の発症がどこから起こるのかを検出する。第2に世界の国際機関が協調して演習やシミュレーションにも取り組まねばならない。そして大事なのは資金です。
エボラのときは8カ月もかかって資金が出たのです。もっと早く国際機関が資金を出さないといけない。今はWHO(世界保健機関)などと緊密に連携し、「パンデミック緊急ファシリティ」などの対策を進めています。
これは、ファイナンスツールを工夫して、保険や資本市場などで事前に基準(トリガーポイント)を決め、そこを過ぎたら官民資金が迅速かつ効果的に出せる仕組みです。エボラを教訓にさまざまな機関が一緒に討議を始めており、絶対にパンデミックに歯止めをかけたいと考えています。
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