増税は必要だとしても、もっと総合的な議論を
企業批判は的外れ
こうした事態に対して、ある大企業の企画担当者はこう予想する。
「アウトソーシングは必要だが、消費税を含めたコストが増加するとなれば、結局、米国企業のように、人件費が低廉な新興国へのオフショア委託をさらに拡大させるしかないということになる」
オフショア委託の加速は、雇用機会の海外流出につながる。そうなれば、国内の受託企業は業務受託量が減少し、雇用を維持・拡大することが難しくなる。
わが国の深刻な財政悪化を改善するために、増税策が不可避な選択肢の一つであることに異論はない。しかし、過去にはなかったような大幅な税率引き上げは、過去には誘発されなかった現象を副次的に発生させる可能性がある。優れた政府はその変容を促すために税制改正することすらある。しかし、現政権や国会の論議にはそういう発想はない。むしろ、完全に見落としているとしかいいようがない状況だ。
誘発されかねない変化の一例が紹介したような企業行動にある。そうした行動が発生した途端に、「税逃れ」「企業の身勝手な行動」と批判するのは簡単だが、建設的な論調とはいえない。経済政策は、それによって派生的に起きる事態まで想定すべきであるからだ。重要なことは、そうした企業行動と社会現象を誘導するほどの重大な制度変更であるという認識を持って、増税措置の発動に向かうことである。
「財政悪化したから増税」という論理の主張は小学生でもできるレベルにすぎない。その措置を導入した場合に派生的に起きる社会的変化を想定して、総合的に考えていくことこそ、政策の立案者、運営者に求められている。
(シニアライター:浪川攻 撮影:梅谷秀司 =週刊東洋経済2012年7月14日号)
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