パリ同時テロに潜む「失われた40年」の十字架 なぜフランスでここまで凶行が頻発するのか

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中でも移民3世の職探しは容易でない。採用では不当な扱いが常態化している。履歴書を送付しても、イスラム系の名前とわかるだけで却下される、といった事例が相次ぐ。

フランスの財政も逼迫し、それに伴って公共サービスの質が低下。このため、公立学校では十分な教育を受けられず、フランス語の読み書きに不自由する移民3世の若者も珍しくないという。

裕福な家庭に育った若者なら、私立学校へ行くことができるが、貧困家庭ではそれも難しい。劣悪な環境下、若年層を中心に、疎外感やフラストレーションが徐々に蓄積。一部はイスラム過激派の思想へ傾斜していった。実際、今回の連続襲撃事件の容疑者も、ほとんどがフランス国籍を持つイスラム系の若者だ。

「フランスは貧困などの問題を解決しないまま、“自由”の理念を尊重するあまり、多くの移民を受け入れてしまった」(上智大学のミュリエル・ジョリヴェ教授)。そのツケの大きさに今、苦しんでいるようにも見える。

揺らぐシェンゲン協定

さらに今回のテロは、ほかの欧州連合(EU)加盟国にとっても、対岸の火事では済まされない。

同時多発テロの容疑者の1人は、シリアからの難民に紛れてギリシャへ入国した可能性が指摘される。フランスのフランソワ・オランド大統領は、今後2年間で2万4000人の難民を受け入れると表明したが、テロ発生を受け、同国を含めたEU各国で、移民や難民の排斥を求める声が高まることも考えられる。

そうなれば、フランスではマリーヌ・ル・ペン党首の国民戦線(FN)など、右翼政党が一段と勢いを増しそうだ。「人種差別主義者と非難されるので、黙ったままFNに1票を投じる状況」(ジョリヴェ氏)が強まってくるかもしれない。

「域内での人の自由な移動」はEUが掲げる理想の1つ。それを具現化させたのがシェンゲン協定だ。過度の右傾化が進めば、協定も形骸化しかねない。統合EUはまさに正念場を迎えている。

「週刊東洋経済」2015年11月28日号<24日発売>「核心リポート01-1」を転載)

松崎 泰弘 大正大学 教授

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まつざき やすひろ / Yasuhiro Matsuzaki

フリージャーナリスト。1962年、東京生まれ。日本短波放送(現ラジオNIKKEI)、北海道放送(HBC)を経て2000年、東洋経済新報社へ入社。東洋経済では編集局で金融マーケット、欧州経済(特にフランス)などの取材経験が長く、2013年10月からデジタルメディア局に異動し「会社四季報オンライン」担当。著書に『お金持ち入門』(共著、実業之日本社)。趣味はスポーツ。ラグビーには中学時代から20年にわたって没頭し、大学では体育会ラグビー部に在籍していた。2018年3月に退職し、同年4月より大正大学表現学部教授。

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