金融専攻の卒業生に私が送るメッセージ--ロバート・J・シラー 米イェール大学経済学部教授
新世代の政治指導者たちは、金融リテラシーの重要さを理解し、市民に法律および金融上の必要な助言を提供する方策を見つけなければならない。経済政策担当者らは、世代間のリスク分担に基づいた年金制度や公的給付の制度を考案するという大きな試練に直面している。
経済学者や金融学者としてのキャリアを目指す人たちは、資産バブルをよりよく理解し、その理解を金融のプロや市民によりよく伝える方法を生み出す必要がある。
現在の危機にウォール街が加担したのは確かだが、この危機は、住宅価格は下がらないという思い込みをきっかけとして始まり、やがて社会に蔓延した。こうしたバブルについて、経済全体に感染する前に対処する方法を知ることが次世代の金融学者の重要な課題になるだろう。
洗練された金融手法を手にした君たちが報酬の多いキャリア形成に興味があるのは当然かつ正当である。このことは恥ずかしいことではない。君たちの金銭的な成功は、雇われた企業にどれだけ成果をもたらすかによって決まる。だが、ウォール街あるいは金融業界全般での成功に対する報酬も変化している。ちょうど、金融が社会における地位を回復し、市民や指導者たちの信頼を取り戻すには、その定義が変わらなければならないように。
金融は、その最善の姿においては、単にリスクを管理するだけでなく、社会の資産を管理し、また社会の深遠な目標を標榜するものとして振る舞う。次世代の金融のプロたちは、金融の民主化──金融の恩恵を社会の隅々にまで広げること──を進展させることでも満足を得られる。それこそが、給与以外の真の報酬であり、持てる想像力とスキルのすべてが必要とされる任務だ。
金融の革新がうまくいくことを祈る。世界が君たちの成功を必要としている。
Robert J.Shiller
1946年生まれ。ミシガン大学卒業後、マサチューセッツ工科大学で経済学博士号取得。株式市場の研究で知られ、2000年出版の『根拠なき熱狂』は世界的ベストセラーになった。ジョージ・A・アカロフとの共著に『アニマルスピリット』がある。
(週刊東洋経済2012年6月9日号)
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