今さらながら、罠にかけられていたことに気づく。体操服の奈央は、折り畳みナイフを持っていない。持っていたとしても、この簀巻きの状態では少しも腕を動かせない。
勢いよく息を吸っても、肺に少ししか空気が入ってこなかった。わたしはここで死ぬかもしれない。行き過ぎたいじめで死んだ子供たちの事件をいくつか想起する。わたしもあの子たちと同じように、体育館で簀巻きの状態で死ぬかもしれない。
涙をこぼす奈央に、木村は…
気づくと涙をこぼしていた。ドッジボールのときも、ワイシャツを破られたときも、奈央は泣かなかった。でも間近に死が迫ってきたとき、本能的な恐怖を覚えて涙が溢れた。
木村はしゃがみ込んで、奈央の顔の目の前に自分の顔を持ってくる。
「なんで泣いてるの! 一緒に遊んであげてるのに!」
と、下半身の側のマットから、人の手が入ってきた。その人の手は、奈央の上履きと靴下を剥ぎ取っていく。
木村の背後に、靴下と上履きを手にして、ジャングルに住む部族みたいな雄叫びをあげながらフロアを駆け回る三宅の姿が見えた。
三宅はバスケットゴールへ向かって、上履きを放り投げた。一足はバックボードに当たり、一足はゴールリングに弾かれた。
奈央はどうにか呼吸をしようとマットの中でもがく。身体は前にも後ろにも動かせない。左右に捩(よじ)ることもできない。たぶん豊田が、マットの上に乗っている。重くやわらかいマットは、ゆっくりと胸部や内臓を押し潰していく。喘ぎながら再び目の前の木村に訴える。
「マットを緩めて! 呼吸ができないの!」
「嘘つくんじゃないよ! あんたは嘘つきだからね!」
「嘘じゃない! 本当に呼吸ができないの! マットを緩めて!」
木村は切れ長の目を三角にして、奈央の頬を打った。
「学級委員のあたしに指図するんじゃないよ! あたしは指図をする側! あんたは指図される側!」
打たれた左頬に、痺れるような痛みが走る。と、下半身側のマットからは、再び三宅の手が入ってきた。体操服の半ズボンを、一気に引きずり下ろす。
三宅はまた部族の雄叫びをあげながらフロアを駆け回り、バスケットゴールへ向かって半ズボンを放り投げる。半ズボンはネットに絡まって落ちてはこなかった。三宅は時計回りにフロアを駆けてマットへ戻ってくると言う。



















無料会員登録はこちら
ログインはこちら