「やっぱり難しいな、もう一度お手本を見せてくれる?」
奈央は再びマットで、二、三回の側転をしてみせる。自分でも思い描いた通りの側転ができて、いくらか気分が高揚した。
木村は再び側転をするも、やはり尻もちをつく。腕と膝が曲がった状態で身体を回してしまっている。典型的な失敗の仕方だ。木村は苦笑しながら立ち上がる。
「やっぱり、わたしにはできそうにないな。わたし、体操って苦手なんだ。今日の跳び箱も三段までしか跳べなかったし」
「普通の友達同士のやり取り」に警戒を解く奈央
奈央は木村と、普通の友達同士のやり取りをしていることに気づいた。だから思わず口にした。
「腕と膝が曲がっているから、斜めに回転しちゃうんだと思う。足先までまっすぐ伸ばすことを意識したら、うまくいくと思う」
木村は言われた通り、腕と膝を伸ばして側転をする。すると今度はさっきよりも随分と綺麗に回転した。でも着地のときにバランスを崩して、やはり尻もちをついた。木村は舌を出して恥ずかしそうに笑った。
「やっぱり難しいな。楠木さんって、座位の前屈ってどこまで手が届く? わたしは身体がかたいから、体操が苦手なのかな……」
奈央は身体が柔らかく、体力測定でも立位体前屈だけはクラスで上位だった。マットに座って、今度は前屈を見せてやる。
次の瞬間だった。
いつの間にか近くにいた三宅と豊田が、マットの両端をつかみ、マットを一気に巻いていく。奈央の身体を巻き込んで、マットはぐるぐると回った。
普段は身体を守ってくれるはずのやわらかいマットが、恐ろしい重さで肉体にのしかかってくる。
マットが端まで巻かれると、奈央は簀巻(すま)きの具の状態でまったく身動きが取れなかった。
マットの重量で胸が圧迫されて上手く呼吸ができず、奈央は唇の端から涎を垂らして喘いだ。
「お願い、元に戻して!」
三宅と豊田は、白い歯を輝かせて子供らしい無邪気な笑い声をあげている。奈央は木村に助けを求める。
木村はあの唇の端を歪めた、気味の悪い笑みを浮かべていた。



















無料会員登録はこちら
ログインはこちら