甲子園ジェット風船が割れやすくなったワケ 製造業者が変わったことが原因か

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それではなぜシャープ産業は、タイガーゴムとの取引を切ったのか。タイガーゴムには取材を受けてもらえず、真相は不明だが、別のグッズ業界関係者によれば、「吹口部分のST基準が厳格になり、タイガーゴムは新基準に合わせて吹口の構造を変えたが、そのために生産効率が落ち、阪神球団が求める量を求める納期に納品できなくなった」からだという。このため、シャープ産業としてはタイガーゴムを切らざるをえなかったのではないか、というわけだ。

メーカーも球団も割れやすくなったとの認識なし

毎シーズン、甲子園では複数のメーカー製のジェット風船が販売されており、球場近隣のショップも含めると、球団非公認のジェット風船も複数種類売られている。

今シーズンはシャープ産業の「阪神タイガースラッキー風船」、ケーツーステーションの「80周年記念タイガース風船」、「タイガース風船」が球団の公認を受けたようだが、これらはいずれも中国製。シャープ産業にOEM供給したのはタイガーゴムではなくタイヘイ化成という会社だった。

このうち、「タイガース風船」以外の2製品は、8月28日に日本玩具協会から回収指示を受け、この日以降販売が中止されている。中国製に変えたから割れやすくなったという説は、パ・リーグ球団のファンも口にしているが、回収指示の理由は、この2製品がSTマーク付きで、なおかつ吹口部分の引っ張り強度がST基準を満たしていなかったためであり、割れやすさとは全く関係がない。

シャープ産業は8月28日以降ジェット風船の販売をやめてしまったが、ケーツーステーションは基準に満たないだけで安全性には問題がないとして、STマークが付かない「タイガース風船」で販売を続けている。

タイガーゴムは、今シーズンは球団の公認を受けていない「くるトラジェット」を販売しており、確かにパッケージにも風船本体にも、球団のマークやロゴはおろか、阪神の「は」の字もなし。風船本体は黄色い地に縞模様で、日本製であることを強調するコピーが台紙に刷り込まれている。

ケーツーステーションに問い合わせると、「昨年度から風船の製法上の変更は行っておらず、破裂頻度が上がったとは認識していない」という。ケーツーステーションは昨年以前も球団公認のジェット風船を製造しており、「風船本体の柔軟性は製造上重要なポイントであり従来から十分に配慮、注意している」という。

「80周年記念タイガース風船」の製造をケーツーステーションに委託した阪神球団も、風船の破裂率が上がったという認識はないようで、「風船が割れやすいと感じるというご意見は、貴重なご意見として承り、より一層の品質向上に努めたい」という。

それではジェット風船の本家本元であるシャープ産業はどういう認識なのか。ここが重要な点なのだが、こちらは残念ながら取材拒否。来シーズンに向けての対策について話を聞くことはできなかった。

割れるジェット風船に関するモヤモヤは、完全に氷解はしなかったが、来シーズンは、割れにくくなり大量の破裂音が響かないことを期待したいものだ。

伊藤 歩 金融ジャーナリスト

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いとう・あゆみ / Ayumi Ito

1962年神奈川県生まれ。ノンバンク、外資系銀行、信用調査機関を経て独立。主要執筆分野は法律と会計だが、球団経営、興行の視点からプロ野球の記事も執筆。著書は『ドケチな広島、クレバーな日ハム、どこまでも特殊な巨人 球団経営がわかればプロ野球がわかる』(星海社新書)、『TOB阻止完全対策マニュアル』(ZAITEN Books)、『優良中古マンション 不都合な真実』(東洋経済新報社)『最新 弁護士業界大研究』(産学社)など。

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