紫外線をカットした黄色い照明に包まれ、接着剤のような匂いが漂う空間に、無数のパイプやタンクにつながれた禍々しい銀色の巨大窯が鎮座する。その前にたたずみ、覗き窓から煮えたぎる溶媒を見つめる男――東洋合成工業・千葉生産10課係長の山本健人さん(38歳)は、感光性材料で世界シェア首位の同社が誇る「製造のプロ」だ。
「われわれの仕事は人間社会の下支え。現代における産業の発展、継続を自分たちが担っている。そんなプライドを持って働いている」
AI(人工知能)や電子機器などの進化を支える先端半導体を造るには、「フォトレジスト」と呼ばれる原料が欠かせない。光に反応して化学変化を起こし、微細な回路パターンの転写を助ける。その主成分となる「ポリマー」を、山本さんは手がける。
一瞬の油断が多額の損失に
所属する生産10課は、昨年9月末に完成した千葉県東庄町の新製造設備を動かす。その導入にかかった約120億円は、売上高386億円(2025年3月期)の東洋合成にとって、過去最大の投資。まさに社運を左右するプロジェクトで、山本さんは各部署から集められた精鋭エンジニアを束ねるリーダーの立ち位置だ。
ポリマーは数種類の材料を反応促進剤と共に煮詰めて精製する。それぞれの濃度や窯へと送液するスピード、加熱の温度をコントロールし、各分子を設計通りに結合させねばならない。わずかでも規定の特性から外れると、材料はすべてパーになる。場合によっては、一発で多額の損失を生む。
よって3~7時間ほどの煮る工程中、つねに技術者が張り付き、職人芸の微調整を施し続けねばならない。さらに生産10課が造る先端半導体用の高性能ポリマーでは、純度を突き詰める。異物が紛れると、ナノメートル単位の回路を描くうえで邪魔になるからだ。「日本の国土全体に対して10円玉1枚でも落ちていたらアウト、という割合」(山本さん)。



















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