高市首相が指示した「労働時間の規制の緩和」と「少子化対策」は"絶望的"に両立が難しい理由

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高市新首相
自民党総裁選の勝利演説で「ワークライフバランスという言葉を捨て、働いて働いて働いて働いて働いて参ります」と5回繰り返した高市早苗新首相(代表撮影:日本雑誌協会)
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2025年10月4日、自民党総裁選の勝利演説で「ワークライフバランスという言葉を捨て、働いて働いて働いて働いて働いて参ります」と5回も繰り返した高市早苗新首相。

これは当初、自分に対しての言葉だと擁護されましたが、組閣を終えて政権発足早々の10月21日、高市首相は上野賢一郎厚生労働大臣に対し、「心身の健康維持と従業者の選択を前提にした労働時間規制の緩和の検討」を指示したと報じられています。

時間外労働の罰則付き上限は原則月45時間、年360時間。繁忙期など特別な事情があっても、月100時間未満、複数月平均で80時間以内に制限されています。

また労災認定が妥当とする過労死ラインは、残業が「発症前1カ月で100時間超」か「複数月平均で80時間超」と規定されています。すでに現在の労基法が過労死ラインであるにもかかわらずそれを緩和するという指示は、日本の労働環境における最も議論を呼ぶテーマの一つに切り込むものです。

厚生労働大臣は翌日の就任会見で、残業の上限規制が「過労死認定ライン」であることを踏まえ、総点検と審議会での議論を進める考えを示しており、事実上の「過労死ライン(月80時間)」の規制緩和の検討が始まったと解釈されています。そんな中、厚労省は10月28日、過労死等防止対策白書を公開しました。精神障害の労災支給認定件数は前年より大きく増加しています。

(出所)厚生労働省 令和7年版 過労死等防止対策白書 〔 概要版 〕を基に株式会社ワーク・ライフバランス作成

「働きたい改革」とは?

「Karoshi(過労死)という日本語には英訳がなく、そのまま使われるほど、日本の労働者は特異な環境に置かれています。世界的に見て、すでに今も長時間労働の傾向にあることはデータから明らかです」

そう語るのは、3600社にのぼる企業の働き方改革のコンサルを務めてきた株式会社ワーク・ライフバランスの小室淑恵社長です。

小室淑恵社長
環境省「働き方改革」加速化有識者会議委員なども務めた小室淑恵社長(写真:ワーク・ライフバランス)

参院選を前にした2025年7月16日、小室社長は過労死遺族の団体とともに、参政党や自民党が、時間外労働の上限規制の見直しを目指す「働きたい改革」を掲げたことに反発し、記者会見を開いていました。「働かせたい改革だ」「過労死した方々を冒涜(ぼうとく)する行為」と訴えていた、まさにその恐れが新政権で一歩実現に近づいた形です。

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