実践なき「アイデア合戦」が地方創生を潰す お気楽アイデアマンが現場を消耗させる

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(3)「プレゼン技術」による情緒性で評価してしまう

アイデアの内容ではなく、情に訴える、共感性を高めたプレゼンで安易に感動してしまい、評価してしまうことが多くあります。プレゼン技術がいくらあって共感を集めても、結局のところ自ら実践する覚悟がなければ、それは単なるホラ吹きにほかなりません。

このような視点でアイデアを評価してしまうため、実際に地域に必要な課題解決など、厳しい実践力が求められる提案は出ませんし、お花畑思考の域を超えないものばかりになっていきます。

実践と失敗を通じて「本当の知恵」は生まれる

本当に地域に必要なのは、思いつきのアイデアなどでは決してありません。地域において賛否両論の中でも小さく取り組みを始めて積み上げ、さまざまな制約条件をクリアし、結果として「成果」といえるものを残すことが大切なわけです。そして何より、実践の中には失敗が伴います。その失敗から学び、再挑戦する中で、本当に地域の抱える課題を解決しうる、現実味のある「本当の知恵」が生み出されます。

会議室に集まり、皆で褒め合うような意味不明なアイデア会議ばかりをしていて、地域が再生するのであれば、もう何十年も前に再生しています。本気で事業に取り組む方は、現場に集中するため、できるだけ実践なきアイデア出しの会議には誘われても出席しないほうが得策です。

最初は地味で馬鹿にされ、途中で失敗などすると、多くの人は「ほら見たか」と罵られることもありますが、その後に成果が伴えば人々の評価は確かなものになります。一方で、派手な新規性のある提案を、勢いよくやっていたとしても、それが時間を経て地域にとってはまったく良いものではなかったことが明らかになる取り組みもあります。

地道でもしっかりと成果を積み上げていくことでしか、地域は変わりません。そのような試行錯誤の先に生み出される、その地域独自の「本当の知恵」を生み出すことこそ、今、地方に必要なことです。

木下 斉 まちビジネス事業家

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きのした ひとし / Hitoshi Kinoshita

1982年東京生まれ。1998年早稲田大学高等学院入学、在学中の2000年に全国商店街合同出資会社の社長就任。2005年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業の後、一橋大学大学院商学研究科修士課程へ進学、在学中に経済産業研究所、東京財団などで地域政策系の調査研究業務に従事。2008年より熊本城東マネジメント株式会社を皮切りに、全国各地でまち会社へ投資、設立支援を行ってきた。2009年、全国のまち会社による事業連携・政策立案組織である一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立、代表理事就任。内閣官房地域活性化伝道師や各種政府委員も務める。主な著書に『稼ぐまちが地方を変える』(NHK新書)、『まちづくりの「経営力」養成講座』(学陽書房)、『まちづくり:デッドライン』(日経BP)、『地方創生大全』(東洋経済新報社)がある。毎週火曜配信のメルマガ「エリア・イノベーション・レビュー」、2003年から続くブログ「経営からの地域再生・都市再生」もある。

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