映画『スノードロップ』生活保護受給者だった監督が描く「矛盾」。生活保護の受給申請が進んでいたのに「家族はなぜ川に入ったのか?」
「実際の事件を調べても、ケースワーカーの不適切な対応などの要因は見つからなかった。なのになぜ、彼らは矛盾した選択をしたのだろう、と」
たどりついたのは「善意のもとで申請がスムーズに進んでいたからこそ、起こった悲劇ではないか」という思いだ。
社会的弱者の視線で
劇中で生き残った直子が拘置所で宗村に「みじめだった」と話すシーンがある。この「みじめ」は「貧しいことを人に知られるみじめさ」とは違う、と監督は言う。
「直子は真面目で、家も清潔にして身なりもきちんとしている。苦しい生活でもそれが日常だったのに、生活保護の申請過程で家賃が4万円であることや社会保険に入っていないことなどをあらためて突きつけられた。
さらに仕事をしていない彼女にとって母親の介護はある意味、生きる指針だったはず。要介護認定の申請によってそれがなくなってしまうと感じたとき、自分が何もなしていない『無』に思えたのではないでしょうか」
本作で伝えたかったのは「社会的弱者の視線で物事をみる大切さだ」と吉田さん。
厚生労働省の調査によると25年6月時点の生活保護受給世帯数は164万5202世帯。物価高などの影響で申請は年々増加している。が、映画は絶望では終わらない。
印象的なラストシーンは吉田さんが保育園や学童で通った「社会福祉法人 興望館」が運営する児童養護施設で撮影された。吉田さんは学生時代に施設でボランティア経験を持つ。
「その経験があったから必要な支援を受けることに抵抗がなかったのかもしれません」
他者へのまなざしを持つことが翻って自分を助ける術になると、映画はそっと教えてくれている。
(フリーランス記者・中村千晶)
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