『丸亀製麺』のトリドール、「店長年収最大2000万円」異例の"神制度"誕生のナゼ 背景にある「心的資本経営」を紐解くなかで見えてきた狙いとは
すでに多くのメディアが指摘しているように、この背景の一つには、昨今の人手不足がある。官公庁の統計データによれば、2025年7月の飲食業の有効求人倍率は調理従事者で2.06倍、接客・給仕従事者で1.77倍になっている。
有効求人倍率は一人の求職者あたり何件の仕事があるのかを表す倍率で、「飲食に携わりたい!」と思う人がいれば、その人には2件の仕事が存在することになる。ちなみに、全職種の倍率は1.19倍なので、その高さがわかるはずだ(一般職業紹介状況《職業安定業務統計》より。なお、パートは除いている)。
こうした厳しい状況下で、少しでも「丸亀製麺」を働き口として選んでほしい……!、そのような思いが滲み出ていることは容易にわかるだろう。
実際、トリドールに限らず、こうした社員待遇の向上は他の飲食企業でも行われている。例えば、すかいらーくグループは昨年、店長の年収を800万円から1000万円まで引き上げることを発表している。これとて、すべての店長がこの年収になるわけではないが、最大値が引き上げられれば、それだけ働き手にとっては「夢」ができる。
トリドールの発表も、これだけを捉えれば、そのような時代の流れに乗ったと見ることができる。
「心的資本経営」とはなにか
しかし、私が気になるのは、この取り組みがさまざまな報道では「これ単体」でニュースになっていることだ。もちろん、これはキャッチーだし、世間の注目も集めやすいからニュースバリューにもなる。
ただ、より深くこの背景を知るためには、そもそもこれがトリドールの掲げる「心的資本経営」というスローガンを体現する取り組みの一つとして始まったことを知る必要がある。
そこで、ここからは「心的資本経営」について説明しつつ、この取り組みの背景を探りたい。

「心的資本経営」はこの9月から新しくトリドールのスローガンに据えられた。書いて字の如く、「心」を重視する経営方針である。「人的資本経営」はよく聞くかもしれないが、そこからさらに一歩進んで「人の心」を重視するのである。やけに抽象的(あるいは宗教的?)に聞こえるかもしれないが、まずは同社の発表を簡単にまとめてみたい。
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