韓国を悩ます「TPP出遅れ参加」の損得勘定 拡大する日本の影響力を危惧

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TPP参加国のうち、韓国は米国、ベトナム(発効予定)、シンガポールとすでにFTAを結んでいる。そのため、韓国がTPPに参加すれば、日本と新たにFTAを結ぶことと同じ効果が発生する。TPPに慎重にならざるをえなかった理由はそこにある。

世界では日本と韓国は競合する品目が多く、実益はそれほどないという現実的な見方も支配的だった。このため、韓国政府はTPPに関心を示しながらも、交渉の推移を見守るという姿勢を維持してきた。

韓国とTPP参加国との間で輸出競合度が高い業種、特に中間財への悪影響が予見される。韓国は機械や自動車部品などで日本と競合関係にある。日本製品が非関税措置に支えられて価格競争力で優位となる場合、韓国企業による輸出にも悪影響が避けられない。

ベトナムと競合関係にある韓国内の繊維産業にとっても、TPPは悪材料である。ベトナムは繊維分野では最大の輸出国だからだ。一方で、ベトナムに進出した韓国企業は、逆にTPPの恩恵を受ける。新韓金融投資のアナリスであるパク・ヒジン氏は「関税比率など詳細が確定しないと正確な評価ができないが、OEM(相手先ブランドによる生産)やODM(製造業者の開発生産)メーカーは、関税撤廃に伴って利益を得る」と指摘する。実際に、そのような韓国企業の株価は、TPP妥結が発表されてから上昇局面を見せている。

韓国にとってTPPの影響は小さい

自動車や電機・電子業界にとっては、その得失を計算するには複雑だ。TPPが正式発効すれば、日本の自動車メーカーの価格競争力が高まるのは確実だ。しかし、韓国の現代・起亜自動車の海外生産比率はすでに50%程度になっており、TPPによる大きな影響はないとの見方も出ている。日韓自動車メーカーにとって最大の草刈り場になっている米国市場では、韓米FTAの効果を考えるとそれほど被害は大きくないとの分析もある。

韓国・産業通商資源省通商交渉室のキム・ハクト室長は「韓米FTAにより、来年2016年から自動車の輸出関税を撤廃することになっている。一方の日本はTPPで今後25年にわたって関税をなくすにしても、すでに米国市場で動き出す韓国のほうがその効果を先取りができる」と自信を見せる。

電機・電子業界は、自信を見せる。TPP参加国のうち10カ国とすでにFTAを結んでおり、TPPによる影響はそれほど大きくないとの立場だ。韓国の主力輸出品目である半導体も、すでに非関税品目であるため、TPPに参加する日本からの影響はほとんどない。

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