東急田園都市線「衝突事故」を招いた10年前のミス 「ATC完備」なのに…万全なはずの安全対策に死角
事故の原因は、渋谷行き各駅停車の通り道である上り線をふさぐ位置に、引き込み線に入る列車がはみ出した状態でも「進行」、簡単にいえば信号が青になってしまう設定ミスがあったことだ。
鉄道の信号システムは一般的に、レールを電気回路として使う「軌道回路」と呼ばれる仕組みによって、列車が線路上のどの位置にいるかを検知し、衝突しないよう制御する。
東急電鉄鉄道事業本部電気部の藤江努統括部長によると、今回の事故が起きた場所も軌道回路によって、回送列車がはみ出していること自体は検知できていたという。だが、それを信号の制御に反映させる設定が抜け落ちていたため、上り線がふさがっていても信号は赤にならなかった。安全を守るATCは、信号が青であれば非常ブレーキはかからない。今回、ATCそのものは正常に動作していたという。

10年間気が付かれなかったミス
この設定ミスは、2015年3月に梶が谷駅構内の改修を行った際に起きたという。効率的な運行ができるよう、下り2番線から引き込み線への列車の移動と、上り列車の3番線への進入を同時に可能にするため設備を改修したが、この際の設計に問題があった。
本来なら、回送列車が今回はみ出していた場所に列車がいる場合は3番線に入る列車が通れないよう信号の条件を設定しなくてはならない。だが、設計図である「連動図表」からこの条件が抜け落ちていたという。
これまで見落とされていたのは、今回の回送列車のように上りの3番線から引き込み線に入る列車が1日に1本しかないことも要因としてありそうだ。藤江部長によると、これまで今回と同種のトラブルは起きたことがなかったといい、「残念ながらそのリスクに気づけなかった」と語る。
東急電鉄は対策として、6日から引き込み線への分岐(ポイント)をロックしたうえで使用を停止。9日に信号プログラムの改修を実施したうえで使用再開し、その後運輸安全委員会の調査結果を踏まえてさらなる対策を検討する。
また、梶が谷駅と似た線路配置の3駅(日吉・菊名・大岡山)については、同種の設定ミスがないことを確認。連動装置のあるほかの30駅についても調査を進めている。

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