「主要俳優に沖縄出身者は1人もいない」けど、あまりに凄まじい…映画『宝島』を"観てよかった"と断言できるワケ

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主要人物を演じた俳優たちに沖縄出身者がいないことに首を傾げる声もある。筆者も地域を題材にした作品には地域の人をキャスティングしてほしいと考えるほうである。

朝ドラ『ちゅらさん』は主演の国仲涼子を筆頭に、主人公のおばぁ(祖母)役の平良とみ、兄役のガレッジセール・ゴリ、弟役の山田孝之など、多くの沖縄に関わりのある俳優がキャスティングされていた。今回は逆のアプローチである。

しかしそれは、当事者ではないスタッフや俳優たちが沖縄のことを真摯に知りたいと思ったとき、まず俳優が当時の沖縄の人物を演じることで、その時代に生きた者の歴史や思いを深く慮るという方法論を『宝島』は選択したのだと推察する。

ただ、民族運動家役に沖縄出身の尚玄、ユタ役にはアメリカ統治下だった時代を経験している、きゃんひとみがキャスティングされている。

あえて若作りを演じた妻夫木の凄み

正直に言えば、1952年代の若者時代を演じる妻夫木聡の若作りにはいささか無理を感じたのだが、すべてのはじまりであるここを彼が演じないと意味がなかったのだろう。それがグスクの気持ちを知り尽くすためには必要で、あえて難しい挑戦をしたと考えたい。

宝島
「戦果アギヤー」だった若者時代からその20年後まで、同一俳優で生き生きと演じた(画像:映画『宝島』公式サイトより)

大人になって刑事になってからの妻夫木は水を得た魚のようだ。とりわけアメリカ軍からトモダチ(スパイ)になるように持ちかけられるエピソードはスリリング。

通訳を演じる中村蒼もよかった。ヤクザの一員として過激な活動をするレイを演じた窪田正孝の、獣のような敏捷(びんしょう)さもよかった。

コロナ禍で撮影が2度延期され、それでもやり遂げた労作だ。あの事件と、そこに流れる感情を再現しようと力を尽くした結果の生々しいマグマを受け止めたい。長尺でパンチが重い作品ではあるが映画館で見る価値のある作品だ。

木俣 冬 コラムニスト

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きまた ふゆ / Fuyu Kimata

東京都生まれ。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。

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