2022年頃には、海外のインフレ率は日本のそれよりかなり高かった。しかし、今はそれが逆転している。アメリカや欧州のインフレ率より日本のインフレ率のほうが高い。問題はかなり深刻だ。
転嫁による賃上げが無理筋である理由
以上の事態に対処するには、政策の大転換が必要だ。
まず第1に、現在の物価高対策は廃止する。これは、エネルギー価格を中心とした輸入物価の高騰によって物価高騰が引き起こされた時代の対策であるからだ。
そして第2に、賃上げに関する政策を180度転換する。政府はこれまで、転嫁による賃上げは望ましいことであり、これを積極的に後押しする政策を行ってきた。しかし、上記のように、転嫁による賃上げは日本経済に深刻な問題をもたらす。
もともと、転嫁の可能性は取引上の優位性に強く依存する。大企業は取引上の立場が強く、販売価格への転嫁も比較的容易だ。これに対して中小零細企業、とりわけ大企業の下請け企業は取引上の立場が弱く、人手不足のための賃上げだと言ってもなかなか認められない。
このため、大企業の賃上げ率が高く、中小零細企業の賃上げ率が低いという問題が発生する。このような見地からも、転嫁による賃上げを無制限に認めることには問題がある。
加えて、現在の日本では、上述のように賃上げが物価上昇をもたらし、それがさらに賃上げを必要とするという悪循環が生じている。こうした見地からすれば、転嫁によって賃上げを行うという政府の方針にはもともと問題があった。
そこでまず最初に必要なのは、政府が政策の基本的な方向づけを「転嫁による賃上げは望ましくない」と180度転換させることだ。そして、望ましい賃上げ率についてのガイドラインを具体的な数字で示す。生産性の上昇率を計測し、これを超える賃上げは望ましくないとする。これによって、賃上げ率を生産性上昇率の枠内に抑える。
もちろん、こうしたことを行えば、人手不足で賃金を引き上げざるをえない中小零細企業は窮地に陥る。生産性を引き上げよと言っても、簡単に実現するものではないからだ。そこで、その対策として政府が企業に直接的な補助を与えることが考えられる。
これは政策の大転換であり、決して簡単に行えるものではない。しかし、そのような政策が必要なほどの深刻な事態に日本経済が直面していることもまた事実である。22日に告示された自民党総裁選でも、実質賃金の継続的な引き上げをどう実現するかが重要な論点となりそうだ。
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