ところが、この状態は2022年に大きく変化。消費者物価の対前年同月比の伸び率が2%程度に上昇した。原因は、世界的なインフレが“輸入”されたことだ。
まず、アメリカが利上げに踏み切った一方で、日本がゼロ金利政策を続けたために、日米間の金利差が拡大し、円安が急激に進行。加えて、アメリカではコロナ禍後の経済回復による雇用の急増によって賃金が高騰した。
また、ロシアがウクライナに侵攻した影響でエネルギー価格が世界的に上昇した。こうしたことが原因となって日本の輸入価格が急上昇し、それが国内の消費者物価に転嫁された。
インフレのメカニズムはどう変化したのか
ところが、このメカニズムは2023年に変化した。インフレの原因が海外要因から国内要因に転換したのである。国内要因で最大のものは賃上げだ。
賃上げは本来、生産性上昇の範囲内で行われるべきである。ところが、2023年以降の春闘の賃上げはこの範囲を超える、著しい賃上げであった。
なぜ生産性を超える賃上げが可能になったのか。賃上げが販売価格に転嫁されたからだ。そのため、物価が上昇する。物価が上がるから、さらに賃上げが必要になる。こうして、「名目賃金は上がるが、物価上昇率に追いつかないため、実質賃金が下がる」という状態が続いた。
賃上げは春闘によって主導された。それまで春闘における賃金上昇率(ベースアップを含む)は2%程度であったが、2023年以降の春闘においては物価高騰を背景として非常に高い賃上げが実現された。これが国内の物価上昇を招いたと考えられる(詳しくは7月6日配信の本連載を参照)。
生産性を上昇させるには、資本装備率の上昇、新しい技術や新しいビジネスモデルの導入、そして産業構造の改革などが必要とされる。これらによって賃金が上昇し、人々の購買力が高まり、需要が増加し、物価が上昇する。これが「賃金と物価の好循環」と呼ばれるものだ。
しかし、生産性の向上は容易な課題ではない。実現するには、長期間にわたる多大な努力が必要だ。
こうして、日本では転嫁によって賃上げがなされているため、賃金が上がると物価が上昇する。物価が上昇するから、賃上げが必要になる、という悪循環が生じている。これは、賃金と物価の好循環ではなく、「賃金と物価の悪循環」にほかならない。
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