エルピーダメモリ争奪戦、交錯する各社の思惑 終焉を迎えた、日本のDRAM産業
広島ではなく台湾 大金払う意思はなし
その東芝が、今なぜエルピーダにこだわるのか。エルピーダの主力拠点は国内の広島工場だが、「広島にはまったく興味を感じていない」(東芝首脳)。東芝が関心を持っているのは、台湾にある子会社レックスチップの工場。エルピーダが破綻前から「為替影響を除いても、台湾のレックスのほうが広島工場よりも生産効率は高い」と説明していたように、これこそがエルピーダ自慢の最先端工場だ。
東芝の半導体事業の主力はNAND型フラッシュメモリ。これを三重・四日市工場で集中生産している。今後の増産対応やリスク分散、円高対策、さらにはデジタル機器組立工場が集中する中国への輸送を考えれば、台湾に工場を持つ利点は大きい。DRAMとNANDならば同じメモリであるため、設備転用も難しくない。事実、サムスン、ハイニックス、マイクロンの主要DRAMメーカーはNANDも展開しており、市況に合わせ両製品の間で生産比率を自在にコントロールしている。
また、モバイル機器のビジネスではNANDとDRAMのセット売りが一般化している。ライバルのNANDメーカーの大半がDRAMも手掛ける中で、「NANDしか持たない東芝は、これがボトルネックになって不利になる可能性がある」(業界に詳しいアーキテクトグランドデザインの豊崎禎久ファンダー)。
ReRAMという次世代メモリの存在もある。これが実用化されれば、NANDはもちろんハードディスクの市場を奪う可能性もある。エルピーダはこのReRAMの開発に力を入れたため、こうした研究成果も魅力なのかもしれない。
ただ、大金を払ってまでエルピーダを“獲る”意図が東芝にはないこともまた事実だ。「もらえるものだったら、もらいたい」(東芝首脳)。少ない負担で欲しい資産を手に入れられれば、というのが本音である。