アルバイト感覚で、詐欺や強盗の片棒をかついだり、売春などの犯罪行為に手をそめている生徒もいたのではないか、と片桐さんは語る。臨時的任用教員として赴任した年、片桐さんが例の「たまり場」を通りかかると、そこにいた女子生徒から“お散歩”に誘われたのだという。
一時期世間を騒がせた「JKビジネス」。隠語として、女子高校生との疑似デートを「お散歩」と表現する事業者もあったが、今思えば、あの女子生徒は自分を客にしようとしていたのではないか、と片桐さんは振り返る。
学校として、これらの問題行動に手を打つことはなかったのか。片桐さんによると、当時の勤務校は教員間での情報共有ネットワークがほぼないに等しく、生徒の素行や校内での事件が伝わりにくい環境だったという。
「教員のグループが学年ごとや科目ごとにあり、とにかく縦割りが強固でした。グループごとに仲が悪く、例えば教室の窓の開閉ひとつとっても、『勝手に開けるな』とたしなめられるほどです。でも、もしここが初めての勤務校だったら、私も『そんなものか』と受け入れていたかもしれません」
こうした教員間の“溝”あるいは“対立”が浮き彫りになったのが、ある年に校内で起きた窃盗事件と、生徒の“いたずら”行為だ。
「実習のために教室を空けていたクラスで、机に放置された財布が盗まれたり、置いてある飲み物のボトルにゴミが入れられるなどの事件がありました。そこでやり玉にあがったのは、なぜか実習を担当していた工業科の教員でした」
工業科の教員にとってみれば、青天の霹靂ともいうべき事態だろう。自分のあずかり知らぬところで事件が起こり、その責任が自分に降りかかってくる――。
「もし、担任間で『近頃、校内で窃盗が起こっている』と共有があれば、管理徹底を呼びかけられますし、工業科の先生に伝えることもできたはずです。情報共有がされず、授業を持つ生徒たちがどのような素行かも知らされることなく、突然陥れられる……。教職の道を志して教員になったのに、教え導くこと以外に課せられる責任や、教務以外の業務が多すぎると感じました」
こうした空気を変えたくて、片桐さんも行動を起こそうとしたそうだ。だが、校内の雰囲気は想像以上に「これ以上手間を増やしたくない」「管理職に目をつけられるだけ」と後ろ向きで、諦めのムードが漂っていた。ほどなくして片桐さんも体調を崩し、現在では別の教育現場に籍を移している。


















