アップル、好決算の陰でiPhoneが意外な失速 出荷台数が事前予測に届かず

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アップルはiPhone発表イベントで、iPad AirとiPad mini 4の2機種を披露している。7.8インチのディスプレイを持つiPad mini 4は、それまで最上位機種だったiPad Air 2と同じA8プロセッサを採用し、iOS 9で利用できるようになる画面分割機能などをサポートし、製品力を高めている。

また、12.9インチのiPad Proは、11月に投入されることがアナウンスされており、高い画質を誇る大画面と高速なプロセッサ、キーボードやApple Pencilといった魅力的なアクセサリを備え、ビジネス市場やクリエイティブ市場へより深く入り込むことを狙っている。

しかし当然このカテゴリでの競争も激しい。しかも、最も競合するのはPCメーカーではなくマイクロソフトだ。ノートPCとタブレットの2つのスタイルをドッキングという形で実現し、ホームユースからビジネス、クリエイティブ向けまで幅広くカバーできる新作「Surface Book」は、米国で飛ぶように売れている。

iPad Proが成功すれば、iPhoneと同様に、iPadのカテゴリの収益を販売台数以上に押し上げることが期待できる。ただし、iPhoneのようにマーケットにおける唯一の存在ではないため、コントロールが難しいカテゴリであることも注意すべきだろう。

日本人は「新しいiPhone」にしか興味がない?

アップルの中国市場での取り組み強化は奏功している。米国外での収益は第4四半期で62%となっており、中国市場は全体の24%を占める。前年同期と比べて10ポイントもの上昇だ。その中国市場での売り上げは1年間で99%増加し、ほぼ2倍になった。中国を新iPhoneの初期発売国に含めたことが勝因といえるだろう。

ただし、前期に当たる2015年第3四半期(4~6月)と比較すると収益はマイナス5%となっており、新型iPhone発売以上に、市場の混乱や経済の失速の影響が強く出ていると考えることもできる。世界経済全体への影響を与えることから、アップルに限らず多くの企業は、中国の経済動向について注視していく必要がありそうだ。

日本事業はどうなのか。日本は、毎回アップルの決算書の中で、独立セグメントとして開示されている市場。その日本市場も前年同期比で9%成長となったが、ひときわ目立つのが前期(4~6月)との比較だ。米国市場は8%増、欧州は2%増、中国は前述の通りマイナス5%、その他のアジア諸国はマイナス8%と冴えない数字が並ぶが、日本だけ37%成長と突出した増加となっている。

増加の要因は新型iPhoneと考えられる。新型発売を前に買い控えが起き、多くのユーザーが発売直後のタイミングでiPhoneを購入した、というシナリオが見え隠れする。新製品に対する反応の良さは喜ばしいことかもしれないが、異なる見方としては、日本人はアップル製品について「iPhoneにしか興味がない」との仮説を立てることもできるだろう。

日本に限らず、世界中で、iPhone以外のビジネスをいかに盛り立てていくかは重要な課題といえる。10月はiMacの刷新、新型Apple TVの発売、11月にはiPad Proの発売が控え、年末に向けて新製品がほぼ出揃ってきた。ショッピングシーズンに、バランスよく顧客を獲得できるかどうかが、今後の焦点といえる。
 

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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