なぜ、学び以外でのタブレット使用を厳しく制限しないのか尋ねると、川嶋さんは「勤務先は少し荒れた学校である」と前置きしつつ、「ゲームをしているほうがマシな状況」について語ってくれた。
「ゲームを厳しく制限すると、他にやることがないからと授業中に教室を出てしまったり、最悪の場合は学校を抜けて繁華街に遊びに行く事態にまで発展しかねません。それなら、『座って静かにゲームをしてくれたほうが、他の人に迷惑もかからずマシ』と教員も諦めているんです」
ブラウザで遊べる「まち針ゲーム」やテトリスなどならまだしも、マインクラフトやマリオカートなど、家庭用ゲーム機と変わらない遊び方をする生徒もいるようだ。中には、複数人でログインしてチームプレイを楽しんでいるケースもある。さらに自習時間などになると、クラスの半数が固まってゲームをしていることもあるという。
あまりに目に余る光景に、システムや教員側でアプリの使用を制限できないか、外部に相談したこともあるが、「1つ制限しても、生徒は次々に抜け道や別のゲームを見つけてくるので、“いたちごっこ”になるだけ」という結論だった。教員側で生徒のタブレット画面を監視できるツールもあったが、本格導入するほどの利便性は感じられず、今すぐ打てる手はないという。
当然、こうした生徒の成績はかんばしくない。さらに問題なのは、本来は良い成績をとれるはずの生徒まで、「水は低きに流れる」のごとく授業への集中がそがれ、クラス全体の成績や、教員のモチベーションを低下させかねないことだ。
ただボーッと座っていれば良いのか?授業の根本問題
かといってタブレットがなければ、教室で居眠りしたり、爪をいじったりしてボーッと過ごす生徒もいただろう。昔なら、先生に隠れて手紙交換などをする生徒もよく見かけた。タブレットを取り上げたところで、「5〜6時間も座らせ続けて、理解できない授業をただただ聞き流させることが良いのか?それはそれでどうなのだろう」と川嶋さんはジレンマを感じている。
「ここには、タブレット以前のもっと根本的な問題があると思います。そもそも、クラス全員が同じ速度・レベルで学習への理解を求める授業に無理があるのです。スポーツでも、例えばマラソンの練習で、初心者に配慮しないペースで走り続けさせたり、逆に速く走れる上級者にセーブさせたりすることはありませんよね。
それと同じで、理解度の異なる生徒に統一の指導内容で理解させることは難しいんです。生徒たちのやる気を考えても、必要なら前学年や小学校の学習にまで戻って、その子がつまずいたところから学習し直す体制が必要だと思います」
授業がわからないからつまらない、勉強したくない――。タブレットで遊ぶ生徒の中には、少なからずそうした生徒がいる、と川嶋さんは確信している。
「使う時間・使わない時間のメリハリを徹底すれば、タブレットと上手く付き合うことは可能でしょう。ただ、学級崩壊など問題があるクラスの場合、教員の指導力の差がもろに出てしまいます。