多忙な先生に「やる必要ない仕事」国が示す利点、「学校の業務を仕分ける3分類」更新へ 学校の業務削減や分業が進まない5つの背景

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今思えば、例示した業務の最初が登下校に関することとなっているのも、よくなかった。前述のとおり、保険上は学校の責任範囲のような記述になっているし、日常的に登校指導など(挨拶運動なども含めて)をやっていた教員から見れば、「現場をわかってない文科省が何か言っているな」という感触をもたれやすいかもしれない。

また、この3分類14業務は、コロナ前につくられたもので、少し古くなっているところもある。例えば、GIGAスクール構想のもと整備が進んだ端末などの管理業務(ID管理・更新、日常的な故障等への対応など)は含まれていない。

⑤トップダウンな進め方への反発ややらされ感が強い

最後に、校長や教職員の納得感があるかどうか考えたとき、④で述べたように内容の問題に加えて、プロセスの問題にも注目したい。というのも、文科省ならびに中教審で検討したものであって、教職員の参画や意見表明はほとんどないまま作られたものだからだ。たとえ内容が妥当なものであったとしても、反発感を持たれても仕方がないような政策形成プロセスだったかもしれない。東京財団の元研究主幹、松本美奈氏は「同意なき3分類見直しを」と提言している。

XなどのSNS上でも、私が研修会などで実際に耳にすることとしても、先生たちの業務負担が大変すぎるので、文科省のほうでさっさと減らせることを示して強力に進めてほしい、といった趣旨の投稿、コメントをたくさん見かける。その一方で、とくに教員の中には、自身が参画していないことについて、上から降ってきた、とやらされ感、反発心を募らせる人もいる。

実際、文科省、中教審は、教師の仕事は個々の裁量が大事な「高度専門職」だと言っている。これと、業務の削減方針をかなり一方的に示すことは、矛盾しているとの指摘もある(前述の松本氏の論考)。私としては、先生たちに裁量や考える時間をつくるためにも、一定程度、トップダウン的に業務の見直しを示すことも必要、とは考えているが。

国が一律に示したほうが速いし、教育委員会や校長としても、「文科省が言っているのだから」と言いやすいというメリットもあろう。一方で、結局教職員間の納得感の醸成、合意形成に困難をきたすと、学校という組織はなかなか前に進まないところもある。

「学校・教師が担う業務に係る3分類」アップデートへ

以上、長文になってしまったが、学校・教員の仕事を減らすというのは、総論賛成、各論反対となることもあるし、プロセスも丁寧に考えていく必要がある。

現在、文科省は中教審に特別部会を設置して、3分類をアップデートしようとしている。文科省の案からは、保護者等からの過剰な苦情や不当要求については「学校以外が担うべき業務」と分類することなどが示されている(中教審・教師を取り巻く環境整備特別部会第1回資料を参照)。私も委員として参加していて、こうした業務の一部の追加や更新には賛成と述べた。

だが、ここで述べてきたように、単に3分類の表現や内容を多少変更して、あとは教育委員会、学校にしっかり伝達すれば事はうまく進む、というほど単純な話ではない、と思う。

これまでの反省を踏まえるなら、3分類のこれまでの問題点や違和感、アップデートすべき内容などについて、教職員の意見出し、アイデア出しをしつつ、多少でもともに検討できた、意見表明できたというプロセスを踏んでいくほうがよいと思う。

というのも、国は方向性を示すが、絶対に従えという拘束力が強いものにはおそらくならないからだ。だから教育委員会や学校において、国が示す以上にもっと踏み込んだ動きをしてもいいし、国の検討では不足しているものを補っても、もちろんかまわない。

具体的には文科省・中教審が3分類のアップデート案を決める前の教職員の参画プロセスをもっとつくること(ほぼ案が固まったあとでパブリックコメントしても、たいして修正になることは想定できないので、パブコメだけではNG)、文科省案ができたあとでも、校内研修などを使って、3分類を1つの参考資料、たたき台にして、教職員がなるべく自分事としてどうしていくか、対話と議論をしていくことだ。

最後に、ささやかな取り組みかもしれないが、私も「#教員不足をなくそう緊急アクション」の活動の一環として3分類のアップデート案についての意見募集を行っている。この記事の感想などとともに、ぜひ声をお寄せいただきたい。

(参考文献)
・小川正人ほか編著『学校の未来をつくる「働き方改革」: 制度改正、メンタルヘルス対策、そして学校管理職の役割』2024年、教育開発研究所
・松本美奈「AI時代の先生はどう働いているか〜 同意なき『3分類』見直しを」2024 年 10月24日

(注記のない写真:ふじよ / PIXTA)

東洋経済education×ICTでは、小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。
妹尾 昌俊 一般社団法人ライフ&ワーク代表理事、OCC教育テック大学院大学 教授

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せのお まさとし / Masatoshi Senoo

徳島県出身。野村総合研究所を経て、2016年に独立。全国各地の教育現場を訪れて講演、研修、コンサルティングなどを手がけている。学校業務改善アドバイザー(文部科学省委嘱のほか、埼玉県、横浜市、高知県等)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁において、部活動のあり方に関するガイドラインをつくる有識者会議の委員も務めた。Yahoo!ニュースオーサー。主な著書に『校長先生、教頭先生、そのお悩み解決できます!』『先生を、死なせない。』(ともに教育開発研究所)、『教師崩壊』『教師と学校の失敗学』(ともにPHP研究所)、『学校をおもしろくする思考法』『変わる学校、変わらない学校』(ともに学事出版)など多数。5人の子育て中。

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