TPP対策、新生JA全中の弱腰に不満噴出 対応を誤れば、日本農業に甚大なダメージ

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JAの組合員にしてみれば、TPPもJAグループの在り方を根底から変える農協改革も、自分たちの存立基盤を脅かす問題だと本音では思っている。政府の主張を受け入れることは到底できず、こうした声はJAグループの気分を象徴したものであった。

JA全中会長の弱腰姿勢にグループ内部からも不満の声

「現地の声を大事にしたい」。JA全中会長の奥野長衛氏は、15日のJA全国大会後の記者会見で、TPP対策をどうまとめ上げていくかを問われ、地域農協のニーズを重視する考えを示した。一方、政府とも「対決はしないが対話はする」と述べ、協調路線を採っていく方針を強調した。これは奥野氏の持論でもある。

こうした姿勢は、グループ内部には弱腰に映っているようだ。あるグループ幹部は「たしかにバランスのよい見解ではあるが、物わかりがよすぎるととられかねない」と述べ、政府の対策が公表されるまでは、もっと強気に攻めるべきだと指摘する。この背景には、政府が農業対策を絞るのではないかという危機感がある。

たしかに、政府からは「TPP対策では、関税貿易一般協定(ガット)ウルグアイ・ラウンド合意時と同じ轍は踏まない」との声がしきりに聞かれる。ウルグアイ・ラウンド合意を受け、8年間で総事業費6兆100億円もかけて対策が打たれたが、それには温泉施設が含まれるなど、どう考えても農業の体質強化につながらない事業も多かったからだ。ただでさえ、多額の補助金をつぎ込みながら衰退の一途をたどっている日本農業に対する風当たりは強い。当時よりはるかに悪化している国家財政を考慮すれば、政府が極力対策を絞りたいと考えても不思議はない。

だが、前出のグループ幹部は「コメや牛・豚肉といった重要品目以外でも、地域によって致命的な影響を受けるものはある。これからかなり厳しい折衝が必要になる」と指摘し、必要な予算、施策は求めていかなければならないと訴えている。奥野氏の発言は理解できるが、最初はもっと強面の側面を打ち出すべきだというのだ。

提示された具体策の評価は?

当然、奥野氏自身も対策の必要性自体は否定していない。15日の会見でも、TPPによる関税撤廃、引き下げにより、日本農業がどの程度の影響を受けるのかという検証を、政府とは別に独自に行っていく考えを示した。その結果に基づいて必要な対策を求めていく方針で、「息の長い農業、10年、20年先を考えたときの投資を(政府と)すり合わせていきたい」と述べている。

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