〈インタビュー〉金原ひとみさんが「性加害の告発」を小説の主題に。「自分が感じた違和感は許すべきものではなかったんだと気づく」

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今何が起きているのか、どういう思想と思想がぶつかり合って、どういう変化が起きて、これから自分たちはどこに向かおうとしているのかということを、俯瞰して体系的に見えるようにしたいと思ったときに、加害者側の視点はマストでした。

――物語の軸である「10年前の性的搾取の告発」のように、時代が変わってから声を上げられることもあります。一方で、「過去に許してしまった」ことで怒りが増幅されている部分もあると感じます。

時代の空気の中で黙らされていたというのはすごく屈辱的なことです。声を上げなかったのは自分の意思というより、社会の意思だったと言えます。

ようやく言えるようになったときは、当時の痛みだけでなく、沈黙してきた時間分の痛みがこもったものとなる。過剰になってしまったり、燃やし尽くしたいという気持ちが強くなってしまったりするのは当然のことだと思います。

金原ひとみさん
かねはら・ひとみ/1983年生まれ。2003年に『蛇にピアス』ですばる文学賞を受賞しデビュー。2004年に同作で芥川賞受賞。東日本大震災後にフランスに移住し、2018年に帰国。2020年『アタラクシア』で渡辺淳一文学賞、2021年『アンソーシャル ディスタンス』で谷崎潤一郎賞、2022年『ミーツ・ザ・ワールド』で柴田錬三郎賞を受賞(撮影:橋本篤)

個人の中に抱えきれない痛みは社会の問題

――旧ジャニーズ事務所やフジテレビの問題など性加害の告発が相次いでいる現状をどのように捉えていますか。

告発した側が糾弾されたり立場を奪われたりするという、絶対にあってはならないことが続けられていて、すごくもどかしいものがあります。

個々の事件や告発が作品に直接影響したわけではありませんが、告発がこんなにも頻繁に起きていて、さらに告発が実を結ばず、きちんとした対策が取られていかない現状を目の当たりにした中で、高まっていったものはありました。

私自身は告発をしたことはないので軽々しくは言えませんが、どこかでこれはもう自分の中に抱えておくのが不可能であると感じたときに告発につながるのではないかと思います。

個人の中に抱えきれない痛みは、もはや個人的なものではなく、社会の問題として考えていくべきです。

インタビューの詳報版は、東洋経済オンライン有料版記事の特集記事「組織が助長するセクハラ加害」でご覧いただけます。特集記事では『東映「セクハラ訴訟」は第三者調査を会社が黙殺』『ジャフコ「全社集会でセクハラ加害者が謝罪」の愚』なども報じています。

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田中 理瑛 東洋経済 記者

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たなか りえ / Rie Tanaka

北海道生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。ゲーム・玩具、コンテンツ、コンサル業界を担当。以前の担当は工作機械・産業用ロボット、医療機器、食品など。趣味は東洋武術。

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兵頭 輝夏 東洋経済 記者

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ひょうどう きか / Kika Hyodo

愛媛県出身。東京外国語大学で中東地域を専攻。2019年東洋経済新報社入社、飲料・食品業界を取材し「ストロング系チューハイの是非」「ビジネスと人権」などの特集を担当。現在は製薬、医療業界を取材中。

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