栃木・宇都宮に「LRT」が走る日は来るのか 路面電車に大規模投資、増える自治体負担

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パートナーの1社、岡山電気軌道が属する両備グループ広報部長の山木慶子氏に応募しなかった理由を伺うと、同じような意見が返ってきた。

「欧米では高齢化対策や環境対策のまちづくりにふさわしい公共交通として、LRTが続々導入されています。日本は20〜30年遅れています。宇都宮市の計画は大規模であり、応援したい気持ちはあります。しかし、公共交通は地元に委ねるべきであり、こちらから押し掛けるつもりはありません。もちろん先方からお願いされた場合は喜んで協力していくつもりです」

しかし、その後に事業費計画が増大し、公設民営の上下分離方式を打ち出しながら営業主体が第3セクターに決まるなど、自治体の負担が強まりつつあるのが事実である。市長選でLRT推進派に票を投じた市民の中には、複雑な思いで状況を見つめる人もいるのではないか。

恩恵を受けるのは一部の市民のみ?

LRTの成功例として引き合いに出されることが多い富山市では、LRTが走る中心市街地への居住を促進すべく、商業施設や文化施設を誘致し、住宅建設、住宅取得や家賃などへの支援を行った。その結果、1970年代から減少が続いていた中心市街地の人口が、一部で増加に転じている。

それに比べると、宇都宮LRTは周辺事業に目立った計画がない。宇都宮市ではフィーダーバス停留所やパークアンドライド駐車・駐輪場を集結させた交通結節点(トランジットセンター)を数カ所用意する計画だが、沿線の商業施設や住宅開発については、民間に委ねるという姿勢に終始している。

2019年度の開業へ向けて、2016年度に着工し、2017年には運転手の養成も手掛けるスケジュールに、現在変更はない。しかし、LRTは路線開通がゴールではなく、むしろスタートである。宇都宮LRTの場合、市の東部にある工業団地への通勤路線というイメージが強く、「一部の市民しか恩恵を受けないので無駄遣い」という評価につながっている可能性がある。

たしかに市長選で民意は得た。しかし事業費の増大や営業主体への出資という状況の中で、市民の理解を深め、事業者からの出資を増やすためには、沿線開発を積極的に行い、一人でも多くの市民の支持を得ることが必要とされているのではないかと考える。

森口 将之 モビリティジャーナリスト

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もりぐち まさゆき / Masayuki Moriguchi

1962年生まれ。モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『富山から拡がる交通革命』(交通新聞社新書)。

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