【朝ドラ あんぱん】 やなせたかし、敗戦後に「運命を変えた」就職先 ‟宝物”との出会いが生涯の伴侶を引き寄せる
「遺骨はなく骨壺の中には一片の木片が入っていた。 ぼくは泣かなかった。まったく見えないところで弟は消えてしまった。名前のように、弟は千尋の深海に沈んだ」
やなせは後年、弟・千尋への思いを、詩と絵で綴った詩画集『やなせたかし おとうとものがたり』(フレーベル館)としてまとめている。
肉体労働に飽きて新聞社に就職する
やがてやなせは、友人の紹介で、屑屋を手伝うことになる。トラックでアメリカ軍の兵舎から出る屑を集めてくるのが仕事だ。体力には問題なかったが、軍隊生活のなかで命令されないと行動できなくなっていたという。そんな自身の状態を客観的に把握しながら、適した仕事を選んでいるあたりは、やなせらしい。
だが、アメリカ兵の棄てたモノのなかから、やなせは「宝物」を見つける。アメリカ兵たちが読み捨てた本のことだ。やなせは本を持ち帰っては、挿絵や漫画を見ているうちに、情熱が湧き上がってくるのを感じた。ひたすら雑誌を眺めていた幼少期のことを思い出したのかもしれない。
そんなときに、やなせは新聞社の求人を目にすることになる。
「挿絵や漫画を見ているうちに、自分の中で忘れていた何かがうずきだすのを感じた。 そして、3カ月もすると肉体労働はいやになってきたのである。 ちょうど高知新聞社で記者を募集していたので、試験を受けることにした。応募者はものすごく多くて、学歴は大学卒はザラだったが、なぜかぼくは合格して高知新聞の記者になった」
このときに高知新聞の記者職に応募するという判断によって、生涯の伴侶に出会うことになるとは、このときのやなせは想像すらしなかっただろう。

(つづく)
【参考文献】
やなせたかし『人生なんて夢だけど』(フレーベル館)
やなせたかし『ボクと、正義と、アンパンマン なんのために生まれて、なにをして生きるのか』(PHP研究所)
やなせたかし『何のために生まれてきたの?』(PHP研究所)
やなせたかし『アンパンマンの遺書』 (岩波現代文庫)
梯久美子『やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく』 (文春文庫)
真山知幸『天才を育てた親はどんな言葉をかけていたのか?』(サンマーク出版)
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