「安全じゃない」「変な虫も一緒に届いた」などの声もあるが…批判を一蹴「SHEIN」「Temu」儲けのカラクリ
その一方で、グローバル市場に出回る圧倒的に安価な製品は、倫理的・社会的な問題も常にはらんできたことも事実だ。特に格安のアパレル商品は貧困国などの安価な労働力と不当な搾取によって生産されているといった懸念が付き物である。
「2013年のラナ・プラザ崩落事故(バングラデシュで違法に増築された繊維工場が崩壊し、多数の死傷者が出た“ファッション史上最悪の事故”)では、崩壊した工場からグローバル展開するファッションブランドのタグなどが見つかり、劣悪な労働環境でより安く・大量に商品を供給する仕組みが露呈しました
。実際に工場でモノをつくっている中国人従業員も、SHEINやTemuで商品が売れているからといって、生活が特別豊かになっているわけではないのです」
安価な労働力が生む成長と中国アパレルの競争力
それでも、中国の越境EC……というよりも、SHEINとTemuの勢いは止まらない。理由は商品や輸送料金だけでなく、人件費も安いからだ。
「身も蓋もありませんが、安価な労働力は、イノベーションや新たな事業成長を生み出す上で、大きな原動力となります。アメリカでは、カリフォルニア州の最低賃金は約16.50ドルですが、テキサス州などでは約7.25ドルと、州によって大きな差があります。経済格差の大きい中国では、いまだに約6億人が月2万円程度で生活しています。(トランプ関税を除いても)今後、中国での生産コストが上昇する可能性はありますが、中国のアパレル製品の格安ぶりは、将来的にも大きくは変わらないと考えられます」
SNS上ではTemuで買い物をした結果、写真や外箱だけ送りつけられるという詐欺のような話もあり、SHEIN商品も素材や縫製などの品質面が粗悪との印象は強い。
「確かに越境ECビジネスには、粗悪品や偽ブランド品などを出品する詐欺まがいの事業者も存在しており、サービスを開始して間もないモールほど、その傾向が強いとされています。ただし、アパレルは世界で年間約15億着が売れ残る業界であり、売れ残った衣類はアパレル産業のない国々へ送られ、リユースされたり廃棄されたりしています。
その中で、ユニクロと同様に、SHEINの服も喜ばれているという声もあります。結局のところ、同じ中国の工場が、日本のアパレルを含め、世界中のブランドから発注を受けているわけであり、少なくとも技術的な面では遜色はありません。だからこそ、SHEINやTemuの商品はデザインも豊富で、流行にもすぐ対応できるのです」
世界の工場としてBtoBでも多くの物を輸出してきた中国。中国以外にも安くものづくりが可能な国はあるが、物流スキームやITインフラを有することから、製造業におけるその地位は揺るぎないものがあるようだ。
「SHEINに関しては、低品質な製品や労働搾取への対策として、サプライチェーンの透明化と製品安全基準の向上に対し、1500万ドルの投資も行っています。そのため、日本において越境ECの拡大は避けられず、中小のEC事業者や仕入れ事業者、OEM事業者などの淘汰が進んでいくことでしょう」
日本のアパレル業界では、NTTドコモ子会社の老舗ファッションEC「マガシーク」がジェイドグループ(旧ロコンド)に昨年買収され、ベルーナ社のファッションEC「RyuRyumall」は今年3月にサービス提供の中止に至った。
「楽天やAmazonでも価格帯の二極化が進んでいて、日本企業は高価格帯のゾーンにしか活路はありません。越境型のBtoCやPtoCのモデルなどに業態を変えて、価格で比べられない価値で勝負しない限り、正面から価格競争では勝てる理由がありません」
中国発の越境EC企業との共存の道を模索しなければならない日本企業の悩みは深いようだ。
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