貴志祐介氏に聞く「面白い小説を書くコツ」 小説を書くのに「文書読本」は役立たず

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──日本ホラー小説大賞、新潮ミステリー大賞の選考委員をされています。

どう書くか。いわゆる「文章読本」の類いは、格調は高いが役に立たない。ただ、翻訳書においてはミステリ小説やベストセラー小説の書き方といった本が有用だ。実践的でなるほどと思わせるところが多々ある。作家デビューしてほぼ18年になるし、一度自分で自分の方法論を振り返り、この本で言語化しまとめてみて、新たな発見がけっこうあった。

ただ、この本に書いたのはあくまで原則。囲碁でいうと定石だ。実際にやってみると定石外れも打たなければいけない。たとえば、日経の『擁壁の町』を読んで、定石と違うとの感想を持つかもしれない。定石を踏まえたうえで、実はあえて外している部分もある。

アイデアは、ふとしたときに頭の中に浮かぶ

──もともとの内容アイデアはどのように生まれるのですか。

貴志祐介(きし ゆうすけ)/1959年大阪生まれ。京都大学経済学部卒業。生命保険会社を経て、96年『十三番目の人格ISOLA』でデビュー。『黒い家』(日本ホラー小説大賞)、『硝子のハンマー』(日本推理作家協会賞)、『新世界より』(日本SF大賞)、『悪の教典』(山田風太郎賞)など多ジャンルのエンタテインメントで作品多数。(撮影 : ヒダキトモコ)

アイデアは、ひねり出そうとして出てくるものではない。その原形はふとしたときにポツリと頭の中に浮かぶ。妄想の種みたいなものだ。その種を書き留めて大事に育てていかないといけない。しばらく経ってだんだん、それに付帯するいろいろなことが創造できてくる。まずアイデアをノートに書く。いけると思ったらパソコン上のファイルに移す。それで1年、2年、もっと経ってから書けるとなるものも少なくない。

アイデアを書き留めるのは大学ノート1冊にでいい。1行や2行でも。書き留めないと忘れてしまい、後で後悔だけが残る。私自身は風呂に入っていて思いつくことが多く、気がつくと頭を5回ぐらい機械的に洗っていたこともあった。

──そしてプロット作業へ。

プロットはストーリーの骨組みを示した設計図のようなものだ。デビュー直後は完全なプロットを書いていたが、その後はそうでもない。たとえば『悪の教典』はかなりの部分は詳細なプロットができていたが、ぽっかり空いている部分もあった。そこは書きながら決めていく。ガチガチに決めるよりも、登場人物に自由に自然に立ち回らせたほうがいい感じに仕上がる場合もある。

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