注目浴びる「路面電車」、実は非効率だった! 全国のLRT導入ムードに暗雲も

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トロリーバスは3336人、首都圏・中京圏・京阪神圏の乗合バスは1232人という旅客輸送密度をそれぞれ記録した。一見、トロリーバスの輸送力はバスよりも高いように思えるが、1台当たりの定員はどちらも70人前後であるから、同等の輸送力を備えた交通機関だ。以上を勘案すると、路面電車の旅客輸送密度が3000人を割り込むようであれば、バスに置き換えてもよいという厳しい局面を迎える。

最後に路面電車の運転用電力の消費率について検証してみたい。表5は電力1キロワット時につき車両が何キロメートル走行できるかという「電費」を示したものだ。

路面電車が抱えるジレンマ

鉄道・軌道全体とモノレールとが0.46キロメートル、新交通システムが0.60キロメートルというなか、路面電車の0.39キロメートルはそう悪い数値には見えない。とはいえ、表定速度の低さを考えれば速度が遅い割に電力消費量がかさんでいるとも言える。

1旅客人キロ当たり、つまり旅客1人を1キロメートル乗せたときの電力消費量を求めると路面電車の欠点が際立つ。表5のとおり、路面電車全体では135.5キロワット時となり、新交通システムの102.3キロワット時、モノレールの78.0キロワット時、トロリーバスの77・9キロワット時と比べてもよくない。いま比較した3形態の鉄道は、いずれも鉄の車輪に比べれば摩擦の大きなゴムタイヤで走行するので「電費」は悪くなりがちだ。

にもかかわらず、路面電車はさらによくないのだから深刻な状況とも言える。全線が新設軌道の東京急行電鉄世田谷線では41・2キロワット時と好調であるため、繰り返しとなって恐縮ながら、このような状況を打破するには道路上を走らないようにするほかないのであろう。

軌道経営者を訪ねて取材してみると、LRTへの転換など夢のまた夢で、いまある設備を維持していくので精いっぱいというところばかりである。巨額の投資を行うには輸送需要の増加が欠かせないものの、そうなってしまうと今度は路面電車では今回検証した速達性、安全性、営業収支、運転用電力の消費率の各面での不利な面が如実に示されるというジレンマが存在するからだ。

路面電車は新交通システムとバスとの間に収まる輸送規模に適した交通機関であるというと聞こえはよいものの、バスの輸送力が向上したり、少量の輸送人員でも採算ラインに乗る新交通システムが開発されたりすると、路面電車の存続は難しい。新たなLRTがなかなか現れない事情もどうやらこのあたりにあるようだ。

梅原 淳 鉄道ジャーナリスト

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うめはら じゅん / Jun Umehara

1965年生まれ。三井銀行(現・三井住友銀行)、月刊『鉄道ファン』編集部などを経て、2000年に独立。著書多数。

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