避難所でふさぎ込んでいた80歳の裁縫名人、「死のうと思ったことも何度かある。今は、生きててよかったと思う」--そごう柏店「までい着」販売会までの足取りを追う

「ウメさんのような人から避難してくれないと、ほかの人も避難を渋る。お願いだから村から避難してほしい」

村長に頭を下げられた。やむなく、長男家族が避難している福島市渡利地区の借り上げアパートに引っ越した。住み慣れないアパートで、ウメさんは長男夫婦が働きに出た部屋で1人で留守番をし続けた。気が抜けたこともあるのだろう。しだいに暗い気分に襲われるようになった。

ウメさんの様子を心配した長男夫婦は、村の人たちに囲まれていれば少しは気分も晴れるだろうと配慮して、昨年7月下旬に出来あがった松川の仮設住宅に移ることを勧めた。ウメさんは、1人で松川第一仮設住宅に移り住んだ。しかし、そこでも部屋に閉じこもる生活が続いた。

「ウメさん、いるかい」

夏を過ぎると、とにかく、玄関外から佐野さんの声がする日が多くなった。仕方なく、ついに話を聞いた。「古着で半てん作りなどの裁縫仕事をしたい。ウメさんに加わってほしい」。断っても断ってもやってくる佐野さんに、とうとう、ウメさんは根負けしてしまった。重い腰を上げて、団地の集会場を訪れた。

そこで、ウメさんはたくさんの着物が積まれている光景を目の当たりにした。どれも正絹、つむぎ等々、立派な着物だった。

「母親の形見です。どうか、使ってください」。小包に添えられた手紙を読んだ。ウメさんは涙が流れた。「ありがたいことだ」と手を合わせた。

秋が深まる頃、集会場に腰をかがめて歩いてくるウメさんの姿が目立つようになった。どんどん、ウメさんは元気を取り戻していた。佐野さんが期待したとおり、ウメさんはいろいろと手縫いの仕方をほかの母ちゃんたちに教えてくれる。自分でも、着物地を持ち帰り、半てんや村に伝わる作業着に仕上げている。

■送られてきた着物に同封されていた手紙

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