「これは、探究を通して学びに関する教員間の対話が増えたことが寄与している」と酒井氏。年数を重ねるごとに、「コア探究は特別な授業ではなく、日ごろの教科授業の延長である」という意見が出るようになりました。
探究学習をよりよくする3つのポイント
このように、探究教育の取り組みは教員のマインドも変えていくのですが、もちろんいつもうまくいく訳ではありません。
一部には賞を目指すことや、地域課題解決が目的になったりしているケースがありますが、とくに教員がはまりがちな罠は、「成果を出さないといけない。生徒の将来につながらなければ意味がないと思い込むことだ」と酒井氏。そもそも探究は試行錯誤することなので、先生が失敗してはいけないというマインドを捨てて試行錯誤することが大切なのです。
そこで、探究をよりよいものにしていくポイントを聞きました。それは次の3つです。
① 生徒がいろいろな大人と関われる機会を設定する。
② 教員が管理指導するマインドセットからの転換を図る。
③ 自分の教科との連動を考える。
生徒はいろいろな大人と出会うことで視野が広がり探究を深めていきますが、そこに伴走することで教員も視野が広がり変化していきます。また、教員はどうしても一様に成果を出さないといけないと思いがちで、成果が出ない生徒に指導しなければと管理しがちですが、生徒によって成長度合いは違います。
差があることが当然というマインドで、生徒の成長のプロセスを楽しむことが大切。また、探究か教科指導かの二項対立ではなく、探究的な学び方を取り入れることで授業の質も向上するし、教師が楽しんでいるかどうかは生徒に伝わると酒井氏。
また探究という共通言語を持つことで、教科を超えて教員がつながることができ、結果としてチームになることができるのも探究がもたらすよい変化のようです。
キャリアコンサルタントでもある酒井氏は、教員のキャリア形成に関しても関心を持っていて、「教員は自身のキャリアを振り返る機会がなく、役職を抜いて自分のキャリアを語れない。総合的な探究の時間に取り組む中で、学校外のさまざまな業種の人と関わった教員は、その中で自身の振り返りをし、改めてなりたい先生像を言語化できるようになった。教員のキャリア発達を考えるヒントにもなるのではないか」と言います。
ここまで話を聞いて、「探究」は生徒だけでなく、教員にとっても変化をもたらすものなのだということがわかりました。教え込む教育から教えない教育へのパラダイムシフトは、教えることを職業としてきた先生にとってはなかなか大変なのかもしれません。
しかし、それが腹落ちした時に、これまで以上に学びの質が向上し、生徒の成長に出会える機会が増え、ひいては教員自身の成長にもつながっていくのです。ますます変化が加速している時代に教育はどうあればいいのか。答えは1つではないでしょうが、探究の時間を探究していくことから次の解が生まれていくのかもしれません。
(注記のない写真:msv / PIXTA)
執筆:教育ジャーナリスト 中曽根陽子
東洋経済education × ICT編集部
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