ホスピス住宅「儲け至上主義」で不正行為が蔓延。最大手にも疑惑、手厚い看取りの制度が収益化手段に

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本来は難病患者などに手厚いケアを提供するための仕組みだが、サンウェルズの経営戦略部は入居者1人の月額診療報酬に高額な「合格ライン」(2022年の場合は81万円)を設定。現場ではこの数字を達成するため、訪問看護での不正が常態化していった。

重篤な患者は他社に紹介

報告書によると、入居者のうち9割超が一律に毎日3回、複数名での訪問看護を受けていた。手厚いケアが必要な患者ばかり入居しているなら問題はないが、業界関係者は「普通はありえない」と口をそろえる。ホスピス住宅を運営する競合企業のトップはこう指摘する。「複数名による訪問が9割に必要とは考えにくい。うちでは寝たきりの利用者の体位変換や褥瘡(じょくそう)(床ずれ)の手当てなどでのみ複数名で訪問していて、全体の1%に満たない」。そもそもPDハウスでは重篤化した入居者を他社のホスピス住宅に紹介してきたと、複数の業界関係者が証言する。

しかも現場は人手不足だった。訪問看護は1回につき30分以上が基準だが、報告書によれば看護師が居室を巡回して数秒見る、モニターのデータを確認するだけでも1回の訪問として記録。つねにナースコールの対応などに追われる中、実際は単独訪問でも同行予定者の氏名を記録することがあった。

問題は、サンウェルズの不正が「氷山の一角」にすぎない可能性が高いことだ。ホスピス住宅は「儲かるビジネス」として着目され、報酬を最大化する手法が業界に浸透してきた。

ある業界関係者はホスピス住宅の現状を憂慮する。「今のホスピス住宅の原型は、訪問看護で手厚い看取りの場をつくりたいと、1人の看護師がつくった。この看護師はほとんどのホスピス大手にコンサルに入っているが、その中からモラルの底が抜けたところが出てきた」。

3月23日には、プライム市場に上場するホスピス住宅の最大手、アンビスホールディングスが不正に診療報酬を請求していた可能性があると共同通信に報じられた。これを受け、同社は同27日に特別調査委員会を設けると発表した。

サンウェルズの不正が認定された後、アンビスは東洋経済の取材に対して「当社が同様の不正請求をしている事実はないと強調したい。説明は惜しまない」と語っていた(2月末時点)。訪問看護の指示を出す医師やケアマネジャーをあえて外部化するなどで、サービスの透明性を保っているとした。今回、「不正はない」との認識に変わりはないか質問状を送ったところ、4月2日に「調査報告書を受領したら速やかに開示する」との回答を得た。

上場するホスピス住宅大手には、ほかに日本ホスピスホールディングスとシーユーシーがあるが、ともに「同様の不正は確認していない」と答えた。

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印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界、総合電機業界などの担当記者、「東洋経済オンライン」編集部などを経て、現在は『週刊東洋経済』の巻頭特集を担当。過去に手がけた特集に「半導体 止まらぬ熱狂」「女性を伸ばす会社 潰す会社」「製薬 サバイバル」などがある。私生活では平安時代の歴史が好き。1児の親。

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