2012年日本の事業会社の信用力見通しは、引き続き弱含み<上>《ムーディーズの業界分析》

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信用上の主な課題

 日本企業の主要な課題は、(1)世界の経済成長が減速する中での需要の減退と、日本独自の問題として、政府の長期にわたる財政赤字を正すための増税の可能性による生産コストの上昇、(2)円高とそれに伴う高コスト構造による競争力の低下、(3)未解決の原子力発電の問題、および(4)いくつかの業界においては、08年から09年にかけての世界危機によって損なわれたバランスシートと収益力を修復し続ける必要性、である。これらの課題は、昨年の大震災後の復興需要による経済成長を相殺してしまうかもしれない。

事業環境は内外の課題に直面しており、日本企業の営業利益およびキャッシュフローは引き続き圧迫されるであろう。業績およびバランスシートの回復が進まないかもしれない状況下で、相対的に負債比率の高い発行体、または先進国への輸出に大きく依存している発行体は、より大きな圧力にさらされることになろう。とはいえ、復興目的の支出が経済に与える影響が本格化することにより、12年の下半期には、状況は幾分改善する、とムーディーズは見ている。

世界的な危機により国内経済の回復が遅れる

 生産の回復、世界のサプライチェーンの大幅な復旧により、11年の第3四半期に景気は一時的に回復を見せたが、先進国・新興国双方における経済見通しの悪化が生産および輸出の回復を遅らせている。そのため、12年には成長は減速し、需要が軟化するであろう、とムーディーズは予想している。

国内市場の消費者心理および事業見通しは引き続き冴えず、多くの日本企業は業績向上のため輸出を拡大してきた。しかし、EUの景気後退や米国経済の回復の遅れが拡大する場合には、この戦略は無効になるかもしれない。

ユーロ圏のソブリン・金融危機の波及効果は、新興市場の成長鈍化にもつながっている。また、先進国の財政引き締めは世界経済の見通しをさらに圧迫している。輸出への依存度が高まる中、世界経済の減速は日本の製造業の成長にとって課題となるであろう。

一方、政府は東北地方の復興に向こう5年間で合計19兆円(うち6兆円はすでに議会で可決され今年中に配分される見込み)を投じる計画である。復興予算は、輸出需要の減少が経済に与えるマイナスの影響を幾分相殺するものとみられる。

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