【日本は有事に弾薬を確保できる?】ウクライナ侵攻が露わにした防衛産業の「サプライチェーン危機」。ロシアは武器の「買い戻し」も
表1‐6にある企業では、中国、ロシア、ウクライナの企業は旧ソ連規格の武器を製造している。それ以外の企業は、日本を含めてNATO規格に従っている。
2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻では、西側諸国がウクライナに武器を供与した。ところがここで問題が生じる。ウクライナはそれまで旧ソ連規格の武器を調達し、ウクライナ最大手の防衛関連製造業であるウクライナ防衛工業(表1‐6で60位)も、主に旧ソ連規格の武器を製造していた。他方で西側が供与する武器はNATO規格のものだ。
結局ウクライナでは、西側からNATO規格の武器を受け取りながら、自国内では旧ソ連規格の武器・弾薬の生産を続けるというチグハグな状態が続いた。ウクライナでも生産設備を旧ソ連規格からNATO規格に変更するのも大変なことなので、NATO規格の装備については基本的に西側諸国からの供給に頼らざるを得なくなった。
弾薬の大量消費と供給確保
ロシアのウクライナ侵攻では、有事に克服すべき問題の1つとして弾薬の大量消費に焦点が当たった。ロシアによる侵攻開始から1年が経った2023年3月に、EUは1年間で155mm砲弾を100万発ウクライナに提供すると発表した。
「100万発」というのは膨大な量にも思えるが、意外にそうでもない。
「武器取引フォーラム」によると、2023年4月時点でウクライナに提供されたNATO規格の155mm砲は279門だ。そのうち160門はアメリカが供与している。この中にはポーランドが供給した第2次世界大戦でも使われた旧式砲(M114)が4門入っているが、誘導式のような高性能弾でない155mm通常弾であれば撃つことはできる。
単純に割り算すると、155mm砲1門当たりの割り当て弾数は1カ月に300発だ。陸上自衛隊が保有する牽引式榴弾砲FH‐70や99式自走155mmりゅう弾砲は、1分間に最大で6発の射撃ができる。ウクライナ軍に提供された野戦砲も同等なので、300発はあっと言う間に消費してしまう。これが1カ月分だ。
155mm砲弾はウクライナでは生産できないので、すべて西側からの供給に頼らざるを得ない。しかしEU全体の155mm砲弾生産能力は、年間30万発だという。このような状況で100万発を支援するというEUの決断は大変重いものがあるが、同時に砲弾のサプライチェーン(供給網)の問題が浮かび上がった。
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