円安批判を忖度した日銀の利上げは間違っている 「今は政策金利が低すぎるから」は正しい判断か
今回の利上げに当たって、日銀審議委員の2024年度の実質GDP成長率の見通しは0.5%と前回からほとんど変わっていない。昨年4月時点での成長見通しは年1.2%であり、同年7月末の利上げを経て、経済成長率は想定どおりではなく、むしろ下振れしている。
日銀の情勢認識には無理がある
これは個人消費がほとんど伸びず、設備投資もわずかしか増えていない、など総需要が停滞しているためだ。需給ギャップがまったく改善していないのだから、2023年半ばから、ディマンドプル(需要増加)に起因するインフレ圧力は、ほとんど高まっていない。
今回の日銀展望レポートでは、「所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まることから、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられる」と書かれている。だが、過去1年はぜいぜい潜在成長並みの成長にとどまっており、この情勢認識には無理があるようにみえる。
総需要の停滞が続いているのだから、昨年の夏場から政策金利を据え置いて、金融環境が緩和的なのか引き締め的なのかを見定めるのが適切な運営だろう。日銀からは、この点について説得力がある説明を、筆者は聞いていない。
植田総裁は「中立金利の下限は1%であり、現在は政策金利が低すぎる」との理由を掲げて、利上げを続けているのだが、この判断はかなり危うい。そもそも、日本銀行自身が認識しているように、中立金利の推計はかなり幅がある(1%台前半~2%台後半)ので、経済情勢によって妥当な政策金利は変わる。
また、政治の現場では、国民民主党が主張する基礎控除の大幅引き上げによる減税政策がどの程度実現するかが主要な論点になっている。「国内需要を刺激するために財政政策を拡張的に作用させる必要がある」と認識する政治家が多数派だろう。こうした状況で断続的な利上げは、経済政策の整合性の観点からも説明しづらい。
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