そして、自分たちの薬局のありかたを考える。
常連客からは次々と雑貨の注文が入る。売り上げは増えるが、薬剤師として物足りなさを感じていた。しかも雑貨が売れて繁盛するほど、勉強する時間は取れなくなっていく。
「思い切って、夫婦で冒険しようと決めました。雑貨はきっぱりやめる。普通のお薬も順次やめて、漢方薬を置いていこうって」
そして、1972年に幡本さんが東京医科大学の漢方特別講座を修了したあと、安全薬局は漢方薬に特化した薬局に舵を切った。
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「神様仏様、皆々様」
そうして薬剤師として2度目のスタートを切った。幡本さんはしみじみと言う。
「私の人生は自分で何かを切り開いてきたというよりも、いつも人に助けられてきたなと思うんです。
薬局を始めることができたのは、父のすすめでお免状を取っていたから。仕入れ先も決まっていない私たちに薬問屋を紹介してくれたのは、店の看板をお願いした看板屋さん。漢方薬の勉強は、『これからは漢方薬の時代よ』と先輩が筋道を立ててくれた。
そして、私がいま健康で薬剤師の仕事だけに打ち込めるのは、娘夫婦が同居してくれたから。もう40年以上、娘が炊事も掃除も洗濯も全部やってくれます。今の自分があるのは私の力ではなくて、本当に皆さんに支えられてきたからなんです」
開業から70年以上の長い年月が流れた今、夫の事業が失敗したのも、自分を薬剤師の道に導くために、神様が与えてくれた失敗だったのかもと思えるようになった。
だから、幡本さんが祈るときは、いつも心をこめてこう唱える。「神様仏様、皆々様、今日もありがとうございます」。
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