「創造的破壊」が資本主義を破壊してしまう「逆説」 「イノベーション理論の父」シュンペーター予言

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子や孫の将来のためを考えて行動するということは、自分の一生より長いタイムスパンでものごとを考え、行動するということを意味する。

したがって、家族動機に駆り立てられた実業家たちは、自ずと、より長期的な視野に立って、投資をしたり、貯蓄をしたりする。

自分が生きている間には利益を生まないかもしれないが、20年後、30年後には利益を生むような事業に投資をして、自分の子や孫がその利益を得られるようにしておこうと考えるのだ。

こうして、資本主義は、長期的な視点からの投資を得て、発展する。

家族動機は、資本主義の発展の原動力だったのである。

「コスパ」「タイパ」がもたらす経済停滞

ところが、先ほど述べたように、資本主義が発展して、合理主義の精神が浸透するようになると、人々は、家族をもつことや子供を複数もつことをやめるようになる。

そうなると、実業家たちから家族動機が失われることになる。

家族をもたない合理主義的な個人は、自分が生きている間の利益のことだけ考えていればよい。自分が死んだ後のことなど、何の関心もない。

そうすると、自分の残りの人生より先の将来のために、今の生活を犠牲にして行動しようとはしなくなる。

こうして、実業家たちは、長期的な視野に立った投資を行わなくなってしまうのだ。

家族動機の提供していた推進力の衰退とともに、実業家の時間的視野はだいたい自分一生の予想だけを考える程度に縮小する。そうなれば彼は、かせぎ、貯蓄し、投資するという機能を果たすことに昔ほどの熱意は示さなくなるであろう(前掲書より)

こうして長期的な投資が行われなくなれば、その当然の結果として、資本主義の発展は止まってしまうであろう。

シュンペーターは、このように論じたのであった。

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要するに、資本主義という経済システムは、家族という経済合理性では説明できない制度や、親子の情愛という損得勘定を超えた価値観に支えられて、発展するものなのである。

これこそが、シュンペーターの核心的な洞察であった。

今日の日本では、少子化が大きな問題となっている。

若い世代の間には、「コスパ」だ「タイパ」だと、損得勘定を最優先する合理主義が蔓延している。

日本企業は、四半期ごとの利益の最大化に汲々とし、長期的な視野に立った設備投資や研究開発投資に消極的になっている。

そして、日本経済は、停滞から抜け出せなくなっている。

まるで、シュンペーターの予言のとおりではないか!

中野 剛志 評論家

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なかの たけし / Takeshi Nakano

1971年、神奈川県生まれ。元・京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文‘Theorising Economic Nationalism’ (Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『奇跡の社会科学』(PHP新書)などがある。

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