インドネシア新幹線、「白紙撤回」の裏事情 手痛い失敗から日本は何を学ぶべきか
日本に続き、ジョコ大統領は3月26日に中国を訪問した。会談の場で習近平主席は高速鉄道への支援強化を表明。両国の間でジャカルタ―バンドン間の高速鉄道建設に向けた覚書がかわされた。
中国も以前から同区間の高速鉄道に関心を示していた。中国の計画では、総事業費は74兆ルピア(約6182億円)と割高だが、金利2%で全額を中国側が負担する。しかも工期は3年で、すぐに着手すれば2018年に運行開始できるとアピールした。
大統領が心変わりした理由は不明だ。高速鉄道に加えて中国が提案したインフラ建設など、さまざまな経済協力を魅力に感じたのかもしれない。ともかく、中国に引きずられる形で日本の高速鉄道案も再浮上した。
日本と中国の案は一長一短だ。総事業費は日本のほうが安く、金利も低いが、中国の案は工期が短く、早期に開業できる分だけ資金回収は早い。インドネシア側で資金調達が必要ないのも魅力だった。
インドネシア側は第三国によるコンサルティングを依頼した。その結果が、まさかの白紙撤回である。ジョコ大統領は「国家予算は投入せず、融資保証もしない」と強調した。さらにダルミン・ナスティオン経済担当調整相は、速度は時速200~250キロメートルで十分であり、その分、30~40%安いコストで建設したいという方針を示した。
白紙撤回に潜むジョコ氏の真意
白紙撤回の背景には、インドネシアにおける都市部と地方の格差がある。ジョコ氏は、これまでの大統領のような名門家や軍出身といったエリートではなく、貧困家庭の出身だ。所得分配制度の改変を公約に掲げ、貧困層の支援を重視してきた。
インドネシアの低所得者層にとって、運賃の高い高速鉄道は高値の花だ。政府のカネを使って開業にこぎつけても、乗るのが所得の高いビジネス客ばかりだとしたら、低所得層から不満が出るのは間違いない。
実際、台湾の高速鉄道もビジネス需要は旺盛だが、料金の高さゆえに家族連れからは敬遠されている。高速鉄道よりも貧困者支援につながる政策を行うべきだと、ジョコ大統領が判断した可能性は高い。
「国家予算は投入しない」という発言からは、総事業費の75%でなく、全額の円借款を日本に要求しているようにも見える。この点では、全額を融資する中国のほうが有利となる。
一方、「融資保証もしない」という発言の真意は、たとえば、新たに設立する高速鉄道会社に全額を貸し付け、その会社が返済できなくなったとしても、インドネシア政府が肩替わりしないことを意味する。
高速鉄道の利用者が予想どおりに伸びず、資金繰りが行き詰まった前例が、台湾高速鉄路だ。同社は台湾政府の支援を取り付け、危機を乗り越えたが、政府保証がないまま高速鉄道プロジェクトに資金を投じるのは、あまりにもリスクが大きい。
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