東海道線「村岡新駅」、周辺開発が抱える問題点 鎌倉市役所移転の行方や駅反対派の主張は?
こうした意見があることは鎌倉市も承知しており、村岡地区と深沢地区の土地区画整理事業を「一体施行」で取り組むことを前提に、処分金の使用については国交省の了解を得ているとする。だが、両事業地が隣接地でないことや、実態として別々に「まちづくり協議会」が設置され、別目的での開発を計画していることなどから、「一体施行というには無理がある」というのが岩田氏の見解だ。

岩田氏はまた、「村岡新駅は、明らかに利権駅だ」とも言い、これも反対の大きな理由としている。
「利権」と断じるかどうかは別として、新駅の設置により誰が利益を享受するのかという視点は重要だ。ここでキーワードになるのが、新駅予定地の目の前にそびえ立つ「湘南アイパーク」である。
新駅設置「得をする」のは誰か
湘南アイパークは2018年4月に、武田薬品が自社研究所「湘南研究所」を外部に開放して誕生した「日本初の製薬企業発サイエンスパーク」(同施設HP)だ。2023年4月時点で約150社、2000人以上の企業・団体が集積し、先端分野の研究が行われているという。だが、別な面から見ると、現在の湘南アイパークは、不動産ビジネスとしての色合いが濃厚になっている。

2020年9月、湘南アイパークの土地・建物を武田薬品が信託設定し、三井住友信託銀行が受託者となり所有権を取得。その後、2021年8月に産業ファンド投資法人(IIF)が信託受益権(信託財産から発生する経済的利益を受け取る権利)を100%取得している。不動産を証券化し、投資家から集めた資金で不動産へ投資し、賃料収入等で収益を上げるリート(不動産投資信託)のスキームを導入したのである。
さらに2023年4月には、武田薬品から分割したアイパークインスティチュート株式会社へ湘南アイパークの運営事業が承継されている。このアイパークインスティチュートの株主構成を見ると、IIFが41%、武田薬品が36.5%、三菱商事が19.5%、その他が3%となっている。
なぜ、三菱商事がここに名を連ねているのかといえば、筆頭株主のIIFの資産運用は、現在は米投資会社のKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)に移っているが、元々は三菱商事系の不動産運用会社が担っていた。これが、三菱商事が湘南アイパーク事業に参入したきっかけになった。
つまり、村岡新駅ができることで周辺の地価が上がって誰が得するのかといえば、IIF、三菱、武田といった企業なのである。実際、複数の証言者から新駅周辺の土地を、すでに三菱商事が買い進めているという話も聞く。
新駅の設置自体への反対運動の当否はいったん脇に置くとしても、「民間企業に儲けさせるために市の予算を投入するのはおかしい。駅を設置するのならば彼らにも応分の負担を求めるべきだ」(岩田氏)という主張には、理解を示す向きも多いのではないか。
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