中国人が定年後は仕事をせずに過ごす理由 働きたくても働けない「ワケあり老人」も多い
こうした「体制内の職場」の人々から見れば、自分の子供に体制内の職場へ就職することを強く願うのも当然のことだ。「80後」(1980年代生れ)、「90後」(1990年代生れ)の世代からしても、自分の親や友達の体制内の親を見て羨ましいと思うのは当たり前。このため、中国の公務員試験と国有企業の入社試験は非常に競争が激しい。
その一方で、体制外高齢者の多くは、働きたくてもなかなか働けないのが現状だ。一般民間企業等の「体制外」で働いていた人は、退職後収入が年金だけになり、現役時代より生活水準を下げざるを得ない。「お手伝い」を雇う余裕がないので、自ら孫や親の面倒を見ることになり、自分の時間をなかなか持てない。
だからストレスを発散したい時は、費用があまりかからない「広場踊り」や「公園合唱」になるのである。中国では、同じ年齢の高齢者でも、元の職場の違いによって、定年後の生活に大きな差が出る。
中国では「晩年を楽しむ」のが理想的な生活モデル
もし、日本では当たり前の70代のタクシー運転手が中国にいたら、どのように思われるだろうか。
「きっと家計のために働いてるのね。こんな年齢になっても楽ができないなんてかわいそう」「子供の顔が見てみたい。なんて親不孝なヤツなんだ」と思われるのと同時に、「年寄りの運転する車に乗っても大丈夫なのか」というのが一般的だ。つまり、世間体と能力面の両面で普通に働くのが難しいのだ。
中国では、「颐养天年(イーヤンテェンニアン)」ということわざがあり、「晩年を楽しむ.寿命が来るまで静養する」ことが一番理想的な老後生活だと思われている。子供が定年後の親に仕事をさせると、周りに親不孝だと思われる。
従って、親が再就職を通して自分の生き甲斐を見つけたいと言ってきても、子供は「面子」「圏子」重視の社会で変な噂を立てられたくない。だから「まあまあいい年だし、せっかく定年になったのだから、『清福(チンフー:何もしなくてもよいという幸せ)』を楽しんだら」と慰めながら断るのが一般的だ。
では、逆に言うと、なぜ高齢者はこんな子供の「言いなり」になるだろうか。理由は、中国の社会保障制度が整っていないため、自分の老後生活は主に子供に頼るしかないこからだ。
特に年金だけの生活になる高齢者は、自分が子供の負担になり、迷惑をかけることを心配する。子供の機嫌を取るため、彼らが望むように、働かずに家事をしたり、孫の面倒を見る。従って、定年後、日本人のように「報酬がなくてもいいので、他人のために何かしたい」「仕事を通して自分の生き甲斐を見つけたい」とまで思う中国人高齢者は少ないのだ。
一方、中国の職場は、「効率至上主義」のため、高齢者雇用に後ろ向きである。中国では、定年した「老人」に対しては、ネガティブなイメージが強い。例えば「身体が弱く、頭の回転も遅いので、効率が低い」「知識が古い」「教養レベルが低い」「何かトラブルがあったら、子供がやってきて大騒ぎする可能性が高い」「下手にこじれると、世論が高齢者の味方をして面倒」「経歴を鼻にかける」などなどだ。つまり、多かれ少なかれ、中国の企業は高齢者の就職に関しては、最初からかなり高いハードルを設定しているといってよい。
さらに言えば、現在の高齢者は一般的に専門知識を持つ人が少ないので、就職先を簡単に見つけられない。しかも、中国政府は若者の就職率向上に手一杯で、高齢者の就職推進対策は二の次だ。
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