アメリカの「宇宙政策」がマスク主導で大転換へ 揺れる同盟関係と加速する中国との競争
ただ、マスク氏が政権に深く関わることにより、Starshipの開発ペースを高めるような予算の融通や規制の緩和が行われる可能性はある。これまで、Starshipの飛行試験の前後には、マスク氏が「余計な環境分析」と呼ぶ連邦航空局(FAA)の調査が行われることが多く、そのためにSpaceXは何週間も作業を中断させられていた(ただし過去のStarshipの飛行試験では機体の爆発や、周辺一帯への何らかの灰のような粒状の物質の降下など、FAAが調査すべき問題が発生していたことも事実だ)が、それらを簡略化または回避するように働きかけることも考えられなくはない。
前のトランプ政権下でNASAの有人探査部門を率いていたこともある宇宙産業コンサルタントのダグ・ロバーロ氏は、新政権のもとでは「少なくとも、より現実的な火星への計画が立てられ、そこへの到達が目標として設定されることになるだろう」と述べている。
惑星協会(Planetary Society)のエリザベス・ケーンク氏は、今後4年間は、宇宙開発全体にとっては良い年になるかもしれないが、NASAにとっては悪い年になるだろうと述べた。
宇宙での同盟関係
アメリカおよび協力各国による宇宙政策は、今後さらに中国との競争激化に直面することが予想されている。また、ロシアなどによる予測できない行動への備えが必要になるだろう。
ただ、中国の動きがアメリカの動きを促進する可能性もある。宇宙における優位性維持や安全保障上の理由から、2020年から2023年まで米宇宙軍の副司令官を務めたジョン・ショー氏は、中国の進歩を考えると、アメリカの新しい政権は月探査ミッションを加速させるよう圧力を受ける可能性があると示唆し、中国との競争の激化が新政権の宇宙政策を形作る要因となる可能性が高いと指摘した。
中国は2030年代初頭の有人月探査ミッションを計画しており、それは宇宙における優位性においてアメリカを凌ぐまでになろうという中国の野心を強調している。
安全保障の面に目を向けると、トランプ氏は2019年に米宇宙軍を設立しており、宇宙でも中国にその存在感を示していくと考えられる。だが、もし国際的な同盟関係に対するトランプ大統領の懐疑的な姿勢が、宇宙分野にまで適用されるようなことがあれば、安全保障上の問題に直面することも考えられなくはない。
アメリカは長年、宇宙での同盟ネットワークを構築してきた。アメリカは、アメリカ宇宙コマンド(USSPACECOM)を通じて、世界の営利企業、学術機関、同盟国政府など185を超える組織と宇宙状況把握(SSA)システム協定を結び、衛星、デブリ、その他の宇宙物体の位置を監視している。今年4月にはウルグアイ空軍もこの仲間に加わったばかりだ。もし、新政権がこの同盟関係を解体したり、提携関係を制限したりすれば、宇宙安全保障への全体的な取り組みが弱まり、衛星追跡、宇宙交通管理、防衛態勢における連携が難しくなるかもしれない。
ショー氏はアメリカに挑戦しようとする潜在的敵対国の取り組みは、国家安全保障宇宙政策の重要な原動力であり続けるとしており、中国やロシアの宇宙兵器開発にも言及して、今後も「脅威が減少するとは思わない」と述べている。
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