欧州連合という夢は崩壊してしまうのか--イアン・ブルマ 米バード大学教授/ジャーナリスト
欧州は金融と同じく政治の面でも修復が必要だ。EUが「民主主義の赤字」に苦しんでいるというのは真実である。問題は、これまで民主主義は国民国家内でしかうまくいったことがないということだ。
国民国家には単一文化あるいは単一言語であることさえ必要ない。スイスやインドを考えればよい。また国民国家は民主主義国である必要もない。今度は中国やベトナム、キューバが頭に浮かぶ。しかし、民主主義国においては帰属意識を持つことが国民に求められるのは確かだ。
EU解体の代替案はあるか
それはEUのような超国家組織でも可能だろうか。もし答えがノーならば、欧州の各国民国家の主権を回復させ、共通通貨をあきらめ、悪夢になろうとしている夢を放棄するのが最善かもしれない。
このことは、最初からEUの夢を一度も共有したことがない強硬な英ユーロ懐疑論者が考えていることだ。これを英国によく見られる不合理な優越感──栄光ある孤立の中で生活する国民の島国根性──として退けるのは容易だ。しかし、英国を弁護するならば、同国民の民主主義には、欧州大陸諸国の大半の国民と比較して、もっと長いだけでなく、もっと成功してきた歴史がある。
ただ、たとえ欧州を解体することが可能だとしても実現には莫大な代償を要する。ユーロを放棄すれば、欧州大陸の金融制度がマヒし、ドイツや裕福な欧州北部だけでなく、困窮した南部諸国にも悪影響が及ぶ。もしギリシャとイタリアの景気回復がユーロ圏内で困難に直面すれば、切り下げられたドラクマやリラでユーロ建て債券を返済するのは極めて難しい。