家で観る映画に迷ったら…週末の「気分別」3作品 エンタメ、社会派、ヒューマンドラマを楽しむ秋
そこで、困難が待ち構えていることを承知で、オギーを小学校へ送り出すのです。ところが、同級生たちは優しく接してくれるどころか、彼の顔をからかう始末です。
そう聞くと「いじめられた子どもを描いた“お涙ちょうだい”の映画か」と思うかも知れません。しかし、この映画がどんな映画とも似ていないのは、物語が始まって20分くらい経過すると、主人公であるオギーの視点で描かれていた物語が、何の前触れもなく突然オギーのお姉さんの視点に切り替わるという点にあります。
つまり、お姉さんから見たオギーの物語になるのです。やがて物語は、オギーのお姉さんの視点からオギーにとって初めての友達となる少年の視点に切り替わり、さらに、オギーのお姉さんの親友の視点に切り替わるなど、物語の視点がオギーの周囲にいる人たちへと数珠繋ぎに変化。
この映画は多角的な視点を持つことで、誰かが“いじめられている”ことに対して、わたしたち観客も能動的に考えるようになるような構成になっているというわけです。
重要なのは、映画全体のカメラのポジションが、よく観ると少し低めになっているという点。子どもの「目線」=「視点」になっているのです。
つまり、子どもの問題を大人の視点で解決するのではなく、子どもの視点で解決しなければならないのではないか? ということを、映像表現においても実践しているのです。
「いじめっ子を追い出そう!」とのスローガンで、原作小説が全米のPTAで推薦書籍に選ばれた際、作者のR.J.パラシオは違和感を抱いたと言います。
それは、いじめる側を排除するだけでは、新たないじめを生み出すことに繋がるだけではないか? と考えたからです。
そこで彼女は、続編小説『もうひとつのワンダー』を執筆するのですが、この続編の主人公はオギーではなく、さらに視点が変化してオギーをいじめた同級生を描いた小説です。
ちなみに、そのいじめっ子がナチスドイツによるユダヤ人迫害を経験した祖母から戦争中の話を伝え聞く姿を描いた『ホワイトバード はじまりのワンダー』(2024)という続編映画が、日本でも今冬に劇場公開されます。
新たな環境に身を置かなければならない時は、誰もが不安に駆られてしまうもの。そんなときに少しだけ勇気を出せる、そんな映画です。
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